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税務判例フォローアップ

平成29年9月10日

31.法人がその職員に対し貸付していたが、その後、職員が資力を喪失したので、債務を免除した場合、その債務免除による経済的な利益について、一般の給与の場合と同じく、源泉徴収すべきか。

債務免除と源泉徴収義務の有無

給与の支払いを行う法人は、その支払の際、所得税の源泉徴収義務を負っています(所得税法183条1項、28条1項)。

そして、所得税法が課税の対象としているのは、「収入」(所得税法36条1項)であり、「収入」は包括的所得(純資産の増加)と捉えています。この世界では、金銭100万円を受け取ることも、他人に対する債務100万円を免れることも、同価値でありということです。ある程度の資産のある人が、100万円の借金を帳消しにしてもらったとして、100万円の負債がなくなることによって、100万円分の購買力が増えるのであり、これは、100万円を受け取るということと同じです(注1)。

となれば、債務免除の場合でも、法人は源泉徴収しなければならないことになります。

ところが、債務者が資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であると認められる場合(以下、略して「無資力の場合」といいます。)に受けたものについては、各種所得の金額の計算上収入金額又は総収入金額に算入しないものとして宥恕されていました(本件事件当時は、法律上の根拠がなく、所得税基本通達36−17による取扱として、現行法では、所得税法44条の2で明文の規定があります。)。

この場合も、源泉徴収する義務があるのでしょうか。

この点、本件で問題になっている役員報酬、つまり、給与に対する源泉徴収義務について、所得税法183条1項は、「給与等の支払いをするもの」は、所得税を徴収しなければならないとしています。そして、債務免除でも「収入」となり、「給与等」にあたりうるところ、経済的価値は支払者にあるのであり、ただその移転を留保すればいいだけであるから、受益者であるその役員の資力の有無にかかわらず、源泉徴収すべきようにもみえます。

思うに、そもそも所得税の対象が、「収入」であり、「収入」は経済的価値の流入により担税力が増したことにあるのということ、源泉徴収義務は、受益者の確定申告による納税義務によって代替されない、別個独立の関係にある義務ではあるものの、所得税の概算払いあるいは前払の性格を持っていること、仮に、源泉徴収が履行された場合、受益者が確定申告を行えば、担税力がない限りにおいて「収入」がないとされるのであるから、還付がなされ、そうなれば債務免除によって、二重の利益を得ることになりかねません。とすれば、受益者が無資力な場合には源泉徴収義務はないというのが整合的な解釈と思います。

いずれにしても、本件事件の上告審でも、解釈の根拠は述べられていないものの、債務免除益を「給与所得における収入金額に算入しないものとすべき事情」があり、「本件各処分」(いずれも源泉所得税納税義務の存否に係るもの)が取り消されるべきものか、更に審理を尽くすべきである、と言っていることから、「収入」として認められない限り、支払者に源泉徴収義務はないという解釈に依って立っていることがわかります。また、その前提で本件の差戻審は広島高裁で審理されました。

注1

相続税法8条が、「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で債務の免除、引受け又は第三者のためにする債務の弁済による利益を受けた場合」には、「相当する金額」を「贈与」により取得したものとみなすとし、他方で、所得税法が、「個人からの贈与により取得するもの」(上記みなし贈与も含む。)は非課税(所得税法9条1項16号)としてところ、債務免除(相続税法の8条にあてはまるかの判断の対象であって税法上の評価前の行為とします。)が「贈与」になるのか、所得税法でいう「収入」になるのか、振り分け基準が明らかでありません。また、「収入」になるとして、税目が、必ずしも明らかではありません。

 まず、経済的利益の移転により利益を得る者と失う者が法人か、自然人かを区別します。

相続税法8条の文言にかかわらず、両当事者が自然人の時に限り、贈与税の対象となり得ます。贈与税の制度が相続の前に贈与によって課税が免れられてしまうことを阻止するものであるから、自然人の場合のみを射程におくことで、適用範囲はかなり狭くなります。

次に、経済的利益と当事者間の法律関係の関連性を分析します。「贈与」は、資産を譲渡した者に金銭その他の経済的利益を全くもたらさないことであるから、対価関係が認められるかを分析し、これが全くない場合には「贈与」、その他を「収入」とします。例えば、当事者間に労働関係が認められれば、比較的緩やかに給与所得、つまり、「収入」として認められます(所得税法9条1項6号、所得税基本通達21-1以下、36-21以下において、その精神が現れています。-)。上の所得税法9条1項16号は二重課税の防止のための規定とされていますが、具体的な基準を示しておらず、「贈与」か、「収入」かの判別が重要になります。そして、「収入」と認められた場合、所得の区分については、その性質や発生の態様によって担税力が異なるという前提に立って、公平負担の観点から、各種の所得について、それぞれ課税方法が定められているので、これに従い仕分けしていきます。

一般に、想定されるケースを図示すれば以下のようになります。

なお、表記しておりませんが、いずれの組み合わせにおいても、担税力のないところから徴税しないという理念の下に、債務者が無資力の場合に、その限りにおいて、「贈与」及び「収入」として課税しないことになっています。但し、自然人について、所得税法(旧基本通達36−17、現行44条の2)と相続税法(8、9条)では文言上その要件は微妙に異なっています。法人税法は、59条1、2項で繰越欠損金の範囲で調整しています。

損する者

利益を受ける者  両者の関係 受益者の経済的利益の性質 条文(原則)
法人 個人 対価関係あり(例えば、雇用関係、委任関係、その他) 給与・賞与、事業所得、雑所得… 所得税法36条1項
なお、雇用関係等の場合、28条1項、183条1項
対価関係なし 一時所得 所得税法36条1項、34条1項、所得税法基本通達34-1
法人 法人   所得 法人税法22条1、2項
なお、出捐者につき、法人税法37条1項
個人 個人 対価関係あり(例えば、雇用関係、委任関係、その他) 給与・賞与、事業所得、雑所得… 所得税法36条1項
なお、雇用関係等の場合、28条1項、183条1項
対価関係なし 贈与 相続税法8条、9条
所得税法9条1項16号
個人 法人   所得 法人税法22条1、2項
なお、出捐者につき、所得税法59条1項
 

 

事案の概要

Xは、青果物その他の農産物及びその加工品の買付け業を営んでいました。

Xは、権利能力なき社団であったところ、Aは、その専務理事でした。

Aは、昭和56年頃から、X及びB金融機関等から繰り返し金員を借り入れ、これを有価証券の取引に充てるなどしていたが、いわゆるバブル経済の崩壊に伴い、借入金の弁済が困難であるとしてXに対し借入金債務(以下、「本件借金」といいます。)の減免を求めていました。

Xは、Aに対し、利息のみを免除していました。

Bは、H17年、Aに対し、債務免除をし、その際、免除による利益について、所得税は課されませんでした。

Xは、Aに対し、以下のような手順で債務を免除しました。

及び本件借金を連帯保証していた同人の元妻が所有し又は共有する不動産を買取り、その代金債務と本件借金とを対当額で相殺し、相殺後の残債務を免除しました。

本件借金が、約55億円、不動産の価格が約7億円であったので、48億円が免除(以下、「本件免除益」といいます。)されました。

これに対し、税務署がXに対し、本件免除益は賞与に当たるとして、源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をしました。

その後、審査請求、第一審の取消訴訟(認容)、控訴審(控訴棄却、原審維持)、上告審(控訴審の判断の破棄差戻)、差戻控訴審という経過を経ました。

裁判所の判断

本件免除益は、給与所得(所得税法28条1項)に当たるか?

この点、事実審では、理由付けは若干異なるものの、本件免除益をもって役員の役務の対価(役員報酬)とは認定しませんでした。 

これに対し、最高裁は、①XがAに対して多額の金員の貸付けを繰り返し行ったのは、AがXの理事長及び専務理事の地位にある者としてその職務を行っていたことによること、②XがAの申入れを受けて債務の免除に応ずるに当たっては、Xに対するAの理事長及び専務理事としての貢献についての評価が考慮されたことから、本件免除益は、Aが自己の計算または危険において独立して行った業務等により生じたもの(事業所得(所得税法27条1項))ではなく、同人がXに対し雇用契約に類する原因に基づき提供した役務の対価として、Xから功労への報償等の観点をも考慮して臨時的に付与された給付(給与所得のうち賞与)である、としました。

したがって、本件免除益は、所得税法28条1項にいう賞与又は賞与の性質を有する給与(給与所得)に該当する、としました。

しかし、控訴審まででは、本件免除益が給与所得であることを前提に、源泉徴収義務の適否の判断がなされていなかったので、差戻審では資力の有無及び無資力の範囲を中心に審理されました。また、この審理において、計算書類や財産目録の金額をそのまま丸写しというのではなく、詳細に個々の資産の帰属と評価方法について、当事者で多岐にわたり主張反論が繰り広げられ、それぞれ、裁判所が判断し、無資力の範囲が画定されました。

この点について、企業が債権放棄を行う上で、どのような評価や計算方法で、「収入」と認められない範囲を画定すべきかについて実務上大いに参考になると思われます。評価を間違えば、相手方の「収入」となり、場合によっては、本件のように源泉徴収義務の不履行となり、また、場合によっては、寄附となり、損金算入が制限されることになりますので、要注意です。

そこで、次回は、本件の続編といたします。

事例

納税告知処分等取消請求控訴事件

岡山地方裁判所 平成25年3月27日判決

納税告知処分等取消請求控訴事件

広島高等裁判所岡山支部平成25年(行コ)第9号 平成26年1月30日判決

納税告知処分等取消請求事件

最高裁判所第一小法廷平成26年(行ヒ)第167号 平成27年10月8日判決

納税告知処分等取消請求控訴事件

広島高等裁判所平成27年(行コ)第30号 平成29年2月8日判決

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