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税務判例フォローアップ

平成27年6月30日

25.株式の譲渡価額の評価において、財産評価基本通達の形式適用が排除されたことで、株主が少ない対価で多くの経済的利益を得たとされ、みなし贈与課税の課税がなされたケース

事案の概要

Dは、X1の母であり、X2は、X1の子でした。

Dは、関係会社であるC社(有限会社)の持ち分(厳密には、株式とは異なりますが、出資の単位であり株式とほぼ同じです。)を、A社、B社に対して譲渡しました。

A社とB社の株主であるX1は、贈与税の申告をしませんでした。

しかし、この譲渡は、その持ち分の時価に比して著しく低い価額の対価であり、A社とB社は、これにより、経済的利益を得、ひいてはその株主であるX1が経済的利益を得たとして、課税庁は、X1に対して、贈与税の決定及び無申告加算税の賦課決定(併せて、以下「本件決定等」といいます。)をしました(低廉譲渡によるみなし贈与)(相続税法9条)。

そこで、X1は、裁判所に対して、本件決定等の取消を求めました。

矢印は、株式等の所有割合を示す。

赤の部分:DのA社、B社に対する持ち分の譲渡の前後の対比。

緑の部分:Dの後に、A社の取引先である13社もB社に対し持ち分を譲渡。

相続税評価基本通達

相続が発生した場合や個人に贈与がなされた場合、その対象は時価で評価されるのが原則です(相続税法22条)。

しかし、法令には、その評価方法が具体的に規定されていません。

もし、都度、一つ一つの財産について、丁寧に鑑定をしなければならないとすれば、多大な時間と費用が掛かります、また、評価方法によっては、価額がバラツキ、納税者間での課税の公平にも影響します。

そこで、国税庁では、税務署職員等に対し、相続税評価基本通達(以下、「評価通達」といいます。)を通知しています。通達は、公務員に対する職務上の命令に過ぎず、直接納税者に対して命ぜられた決まりではありません。

しかし、国税関係職員が税務行政を執行する過程で、通達に準拠することを通じて、法令と同様の機能を発揮するのであり、納税者もこれに準拠して行動しています。

本件訴訟では、後に述べますように、X1は、評価通達の「文言」に従い、財産の評価を行い、申告する必要がないと判断したのに、どうしてその「文言」に従わずに、別の基準を持ってくるのか、として争われています。

そこで、まず、評価通達の正当性を確認しています。

評価通達に定められた評価方式がその財産の取得の時における時価を算定するための手段として合理的なもの、つまり、納税者間の公平、納税者の便宜、効率的な徴税の要請を満たすものであれば、相続税法22条は許容する

もっとも、評価通達の定める評価方式以外の評価方式によるべき特段の事情がある場合には、別の評価方式によって評価されたとしても、それが合理的なものであれば、租税平等主義に反しない(評価通達6項)

大きな争点

本件で登場する会社は、すべて非上場会社でした。非上場株式の場合、評価通達によって、取引相場のない株式の評価手順によって、時価が評価されることになります。

①株主の判定(同族関係者か、それ以外か)、②会社規模の判定(対象となる会社の規模はどのくらいか)、③評価方式の判定(その会社は、純資産価額方式、類似業種比準価額方式、配当還元方式のいずれで評価すべきか)を順に検討していきます。詳しくは、国税庁のホームページへ。

ここでの哲学は、取引相場のない会社の株式の価値は、会社に対する支配権があるか否かによって異なる、会社に対する支配権の有無は、個人単位で決めるのではなく、一体として意思決定を行うと評価される集団(同族関係者)ごとに行う、担税力を考え小さな会社ほど掛け目を小さくする、但し、ほとんどの保有資産が株式や土地といういような特殊の会社については、掛け目を設定しない、ということになろうかと思います。

 

本件での大きな争点は、DがA社、B社それぞれに対して、譲渡したC社の持ち分の評価方法でした。端的に言えば、①の株主の判定における評価通達が引用している法人税法施行令4条(以下、「本条」といいます。)の解釈とアテハメの問題です。

 

X1は、文言通りの解釈を主張し、本条が適用されないから、A社、C社は、同族関係者でないと主張しました。

課税庁は、評価通達の規定の趣旨に遡り、本条の適用を回避し、C社が同族関係者であると主張し、これを足掛かりにして、今度は、本条を文言通り適用し、A社が同族関係者であると主張しました。

(同族関係者の範囲)
法人税法施行令4条2項
法第二条第十号に規定する政令で定める特殊の関係のある法人は、次に掲げる会社とする。
同族会社であるかどうかを判定しようとする会社の株主等(当該会社が自己の株式又は出資を有する場合の当該会社を除く。以下この項及び第四項において「判定会社株主等」という。)の一人(個人である判定会社株主等については、その一人及びこれと前項に規定する特殊の関係のある個人。以下この項において同じ。)が他の会社を支配している場合における当該他の会社
判定会社株主等の一人及びこれと前号に規定する特殊の関係のある会社が他の会社を支配している場合における当該他の会社
判定会社株主等の一人及びこれと前二号に規定する特殊の関係のある会社が他の会社を支配している場合における当該他の会社
前項各号に規定する他の会社を支配している場合とは、次に掲げる場合のいずれかに該当する場合をいう。
他の会社の発行済株式又は出資(その有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合
他の会社の次に掲げる議決権のいずれかにつき、その総数(当該議決権を行使することができない株主等が有する当該議決権の数を除く。)の百分の五十を超える数を有する場合
事業の全部若しくは重要な部分の譲渡、解散、継続、合併、分割、株式交換、株式移転又は現物出資に関する決議に係る議決権
役員の選任及び解任に関する決議に係る議決権
役員の報酬、賞与その他の職務執行の対価として会社が供与する財産上の利益に関する事項についての決議に係る議決権
剰余金の配当又は利益の配当に関する決議に係る議決権
他の会社の株主等(合名会社、合資会社又は合同会社の社員(当該他の会社が業務を執行する社員を定めた場合にあつては、業務を執行する社員)に限る。)の総数の半数を超える数を占める場合
  X1 課税庁
①株主の判定(同族関係者か、それ以外か) A社は、X1らの同族関係者に当たらない。

A社において、X1の同族関係者グループは、X1、B社…によって構成され、43.5%しか保有されておらず、A社の議決権総数の50%を超えない。
C社は、X1及びB社の同族関係者に当たらない。

C社は、X1及びその同族関係者であるB社(X1、X2らが議決総数の50%以上を保有(本条2項3号)。)によって、議決権総数の31.57%しか保有されておらず、50%を超えない
A社は、X1らの同族関係者に当たる。

A社において、X1の同族関係者グループは、X1、B社、C社…によって構成され、議決権は、A社の議決権総数の50%を超える(本条2項3号)。

C社は、X1及びB社の同族関係者に当たる。

C社は、13社(非同族関係者)が社員であった間、一貫して、X1及びその同族関係者(本件各譲渡まではD、本件各譲渡後はB社)によって実質的に支配されていた
②会社規模の判定(対象となる会社の規模はどのくらいか) C社は株式保有特定会社に当たる。

C社の株式保有割合は、98.4%であり、50パーセント以上である。
③特定会社等の判定(純資産価額方式、類似業種比準価額方式、配当還元方式等のいずれで評価するか) A社は、DからC社の持ち分を取得するに当たり、同族関係者ではないから、配当還元方式によるべき。

時価9億4164万円
(1口3万9235円×2万4000口)
A社は、DからC社の持ち分を取得するに当たり、同族関係者であり、かつ、特定株式保有会社であるから、純資産価額方式によるべき。

時価19億4889万6000円
(1口8万1204円×2万4000口)

左の金額との差額に関連して、A社の株主であるX1に対して、みなし贈与税が課税される。

判決とコメント

裁判所は、課税庁の解釈手法をそのまま受け容れ、X1の請求を棄却しました。

事案の経緯を見れば、C社は、飲料品等の販売で財を成した先代の資産の管理会社であり、また、法人税について更正処分等がなされていたこともあり、課税当局に目をつけられていたようです。

税務行政の実際的必要性と立法の限界から通達による課税が許容されるとしても、通達が依拠している法人税法の定量基準では法目的(租税回避の阻止)を達成できないとして、評価の対象となったC社の同族「支配」を判断するに当たり、C社の52%の持ち分を有していた取引先である酒類メーカー13社の株主総会での投票状況などが消極的であったこと、酒類食料品の卸売等を基幹的な営業を行っているA社の取引先であり密接な関係があったこと、本件譲渡の後に安価で持ち分をB社に対して譲渡したなどとして、「実質的に支配があった」として、定性的に判断したことは、いささか雑な事実認定と法律解釈と思われます。

同族関係者以外による株式の保有が、単なる名義だけのもの(通謀虚偽表示など)であったり、裏約束があった場合などであれば格別ですが、裁判所も前提としていると思われる酒類メーカー13社が実質的に持分権者だったのであれば、X1らの同族関係者の経営に係る意思決定が、少なくとも潜在的には、13社によって掣肘されていたはずであり、遡って過去の経営へのコミットメントを評価し、これを元に「支配」の有無を判断することは、法的安定性を害するものとも思われる。

制限条項を用いるにしても、裁判所は、「著しく不適当」な事情、つまり、著しく不当な租税回避の結果の立証を求めるべきであったと思われます。その時に限って、例外的な解釈が許されるものと思います。

また、その際に評価通達で求められている国税庁長官の指示(評価通達6)がどのようにされたかも認定されていません。

 

※ 一つの争点に焦点を絞っていますが、本件は、100ページ以上におよぶ判決であり、また、関連する先行の取消訴訟もあり、争点は多岐にわたるものです。

事例

平成26年10月29日 東京地裁 贈与税決定処分取消等請求事件

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