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あなたの財産承継に関する悩みに答えます

平成28年11月4日

9.会社分割方式

① 私は、甲株式会社の創業者兼現経営者です。株式も100%、私が所有しています。甲社にはA事業部門とB事業部門があります。A部門は飲食事業部門、B部門は娯楽事業部門です。いずれの部門も、自社物件の上に施設が建設されているところ、いずれも含み益があります。A部門の物件は、簿価1億、時価2億、B部門の物件は、簿価2億、時価3億になっています。

② 私の家族は妻と子供二人です。子供は、長男と次男の二人で、長男は甲会社の取締役をしており、長男にはA部門を任せています。次男は経営に関わっておらず、公務員になっています。B部門では、駅前のゲームセンター1店舗を経営しおり、別の取締役のC君に任せています。

③ これまで、A部門が好調で、B部門の赤字をカバーできていたので、これができるうちにB部門を再建したいと考えて、3年前、B部門に1億円の借金を元手に新型のゲーム機を設置しました(私とC君が保証人です。)。確かにB部門の利益は増えたのですが、B部門から上がってくる営業キャッシュフローだけでは、月々返済すべき元本と利息からなる返済原資を賄えません。却って、財務キャッシュフローのマイナスが増えてしまい、手元資金が枯渇しかけています。という次第で、メインバンクを始めとして、3社に対して、金利分の返済を猶予してもらっています。もっとも、従業員や仕入れ先に対する支払いは滞っていませんし、社会保険料の滞納もありません。

少なくとも私の力では、もはやB部門の再建は無理だと考えており、甲社にとってB部門は完全に「お荷物」になってしまいました。現在、B部門の事業規模を縮小していく方向で作業をしており、従業員も業績好調なA部門に徐々に移って貰っていますが、A部門で抱えられる人員にも限りがあります。

④ 私としては、そろそろ会社の承継のことも考えなければならない年齢になってきたこともあり、近々長男を代表取締役にしたいと思ってはいるのですが、

私の生きているうちに、長男も次男も立ちゆくような方法を考えてやりたいのですが、何か良い方法はないものかと悩んでいます。

ポイント

 

B部門の事業を続ければ、単体なら持続的発展が可能なA部門の収益を食いつぶし、会社の事業全体が破たんに至ることが十分予想されます。

 

〔何も対策を採らなければどうなるか〕

 

貴社の簡易キャッシュフローの金額(毎月の経常利益に減価償却費を足した金額)が、毎月の融資の返済額(元本と利子の合計)と運転資金(「売掛金+在庫商品-買掛金の合計額」÷12)より少ない場合、借り入れが困難な状況ということですので、毎月、キャッシュアウトが生じ、資金が枯渇してきます。

資金が枯渇すれば、日々の支払いにも窮し、やがては、倒産に至りかねません。

そうなれば、従業員の方の職を失わせることになるし、貴社の役員の方が会社の借入れについて、保証人になっているのであれば、会社の倒産により、期限の利益はなくなり、多額の借金を一度に支払わなければならなくなります。

その結果、会社と保証人になっている役員の方は、自己破産せざるを得なくなります。

 

〔改善策〕

 

ある事業部門について長期的に見て収益性に改善が見込まれないのなら、その事業部門を切り離し、収益性のある事業部門のみを承継した方が望ましいこともあります。

ご相談のケースでは、あなたが全株式を所有されているので、事業承継のための前さばきも比較的容易にできます。

B部門を切り離す方法については、例えば、以下のようなアプローチがあります。

B部門を切り離す方法

(1) B部門の清算を行う。

B部門について、債権者に対して債権放棄を求める必要がないのであれば、個別の取引関係を解消するため、継続的取引契約などを解除することになります。B部門に係る営業用財産(土地、建物、付属設備、動産類)等を換価します。B部門について、従業員の同意を得ることができれば、リストラを行います。なお、事業部門の廃止に伴い、従業員を整理解雇できるかについては、種々の制約があります(ⅱ)

仮に、B部門に係る清算手続きを進めても、解雇手当、違約金、長期貸付金の早期弁済を求められ、しかも、その弁済資金をA部門の営

このような場合、例えば、B部門の同業者などに対して、事業を譲渡することも考えられます。

 

(2)B部門の事業譲渡を行う。

事業譲渡は、有機的に一体としての組織体を譲渡することですから、従業員も一緒に移転してもらうことになります。その際に、会社法は従業員をして当然移転としておりませんので、個別の交渉が必要となります。

事業譲渡は会社経営に影響するため、単に取引の相手方と契約を締結するだけでは足りず、「事業の重要な一部の譲渡」(ⅲ)に当たる場合、株主総会特別決議が必要になり(会社法467条1項2号、309条2項11号)、また、B部門の事業を譲渡することで、会社の債権者に対する支払いが害される場合には、譲受会譲受会社も責任を負うことになります(会社法23条の2)。

もっとも、ゲームセンターはブランド化が進んでいるため、あるがままでの移転は難しいでしょうし、また、事業の評価は、DCF(ディスカウントキャッシュフロー)(ⅳ)方式によって計算した場合、現在価値の評価が単なる営業用財産の合計額より勝るかも疑問です。

このような場合、会社からA部門(B部門が、badであるのに対して、good。)を切り出す方法の方が妥当と思われます。

 

(3)会社分割(第二会社方式)を行う。

第二会社方式とは、会社の優良事業を移転させ、収益力や資産価値に見合った負債だけを新しい事業体に負担させる方法をいいます。本件では、会社からA部門の事業を移転します。移転の方法は、事業譲渡による場合と新設分割会社が事業の移転を受ける場合とがあります。

前者の場合は、事業を売り渡すことになるので、長男の事業承継につながらない、かといって長男に売り渡したのでは、本来の事業承継になりません 。

そこで、後者のように、会社(乙会社)を新設し、そこにA部門の事業を移転させ、会社の株主であるあなたが甲会社を経て、乙会社の株式の交付を受け、あなたがA部門の事業を引き継いだ乙会社の株主になります。併せて、甲会社について、特別清算の手続を採ります。特別清算とは、会社の清算手続の一つであり、裁判所の監督下で、債権者の3分の2以上の同意を得て債務の免除を受け、清算する方法です。

このような会社分割の手続を採ることで、乙会社は、bad部分をそいだgood部分のみとなるので、その後の経営が安定するというメリットがあります。

また、事業譲渡と異なり、現物出資される事業は関連する従業員と一体として乙会社に移転しますので、従来のマンパワーを活用できます。会社分割によるA部門の事業を追行する限り、飲食店の経営は届け出だけで足ります 。

もっとも、会社の重要な財産を移転することから、事業譲渡と同様、株主総会特別決議が必要になります(会社法783条1項、会社法309条2項12号)。

また、A部門の事業に従事する労働者に対し、予定する処遇について説明を行い、意見を聞き決定しなければなりません(コラム 会社分割と労働者保護手続)。もっとも、事業譲渡においては、移転について個別の労働者の同意が必要となるのに対し、会社分割の手続については、個別の事業譲渡の場合より会社にとって手続が有利になっています。すなわち、移転される事業に主として従事していた労働者は、分割契約または分割計画により残留させられる労働者を除いて異議を述べる機会を与えられませんので(事前協議は必要ですが)、分割承継会社に労働契約がそのまま移転します(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律)。

さらに、債権者に対し、予め貸借対照表、損益計算書等を開示し、1か月間の異議申立期間を設定しなければなりません。異議が出された場合、弁済または担保の提供をしなければなりません。

加えて、詐害的分割として事業の移転が妨げられないよう配慮することも必要です 。詐害的分割とは、譲渡会社が譲受会社に承継されない債務の債権者を害することを知って事業を移転した場合です。この場合、その債権者は譲受会社に対して、承継した財産の価額を限度として、債務の履行を請求することができます(会社法759条)。

そこで、安易に手続を進め、不安な思いで経営を続けるよりも、将来の経営の安定を確保するために、中小企業再生支援協議会などの中立な第三者機関を利用する方法があります。

中小企業再生支援協議会を利用する。

中小企業再生支援協議会とは、財務上の問題を抱えているものの、事業の収益性はある中小企業に対して、再生に関する相談から再生計画策定支援まで支援を行う、産業活力再生特別措置法に基づく国の認定機関です。貴社の場合、上記1の手続を行うに際し、支払が滞っているのが金融機関のみということですので、全債権者のうち、金融機関のみを交渉相手にします。

本手続は、金融機関等の債権者のみを交渉相手とするものであり、仕入先など会社存続上重要な一般債権者に知れずに交渉を行え、交渉相手が少ない、裁判手続ではないので簡便であるなどのメリットがあります。

もっとも、簡便故、その適用範囲は、金融機関等の債権者のみから譲歩を得れば、企業が再建でき、民事再生などの法的手続をとるよりも、手続費用を節約することができ、債権者・債務者の双方にとって経済的合理性がある場合に限定されます。また、法的手続と異なり、債権カットについて、債権者の多数決等によることができず、交渉の対象となる債権者全員の同意が必要となります。

要は、債権カットをお願いせざるを得ないこととなる金融機関等に対して、今、事業をたたむよりも返済率で勝る再生計画を提案し、その計画の内容として、第二会社方式を盛り込みます。つまり、bad部分に残され、債権カットされることとなる部分について、あらかじめ同意を得ておくのです。その上で、まず、乙会社の新設分割の手続を行い、これに引き続き、甲会社の特別清算を行います。

 

第3の債権者に注意する(税務上の問題)。

首尾よく、債権カットの提案が銀行団に受け入れられたとしても、第3の債権者の存在を忘れてはいけません。

 

(1) 適格会社分割の利用

上記1(3)で説明したスキームである第二会社方式によれば、甲会社が一部の事業を乙会社に対して移転することになります。これは、法人税法上、甲会社の譲渡所得となります。つまり、含み益に対して法人税が課税されます。A物件の含み益が1億円あります。法定実効税率を36%とすれば、この機会に3,600万円が法人税等の名目で流失することになります。

また、甲会社の株主については、みなし配当課税と株式譲渡所得税が課されます。前者については、交付された乙会社の株式のうち、資本金等(≒出資)の額に対応する金額に対応する以外の部分、つまり、利益積立金(≒課税済み留保金)に対応する金額について、みなし配当課税がなされます。つまり、甲会社に交付された資産(乙会社株式等)の合計額-{分割直前の甲会社の資本金等の額×甲会社から移転される事業に係る直前の純資産価額(時価) / 甲会社の前期末純資産(時価)}が、みなし配当となります。これを平易に言えば、移転される事業に対応する甲会社の純資産の価額に等しい乙会社の株式等が交付されたとして、その金額が甲会社の全資産に対する移転資産の割合に対応する資本金等の額に対応する部分を超えた分が、みなし配当として、課税されることになります。後者については、譲渡価額(分割直前の甲会社の資本金等の額-みなし配当の額)-株式の取得費(おそらく払込金額)-譲渡費用に対して、譲渡所得税が課されます。

しかし、会社分割に際し、法人税法上、甲会社の株主の乙会社に対する投資が継続し、事業が継続していると認められる場合(適格会社分割)、甲会社から乙会社へ、簿価による資産負債の譲渡が認められ、甲会社に対し、法人税等は課せられません。また、乙会社から甲会社に対して、乙会社株式のみが交付される場合には、甲会社株主であるあなたに対しては、株式譲渡所得税も、みなし配当所得税も課されません(コラム「適格組織再編成税制」参照)。

(2) 免除益課税の問題

上記1で説明したスキームにおいて、債権カットを受けるのは、新設の乙会社ではなく、甲会社です。ですから、税法上、債権カットの利益を受けるのは、甲会社となります。清算手続においては、通常の法人税の損益計算と同じように、清算事業年において、損益計算がなされ、益金があれば法人税等が課されます。債権カット、つまり債務免除益も益金の一つです。特別清算手続の終結段階で最終の納税額が確定します。仮に、法人の清算所得があるにもかかわらず、残余財産を全部分配してしまい、納税資金の確保を徒過してしまえば、清算人及び甲会社が第二次納税義務を負わなければならなくなります(国税徴収法34、36条)。但し、青色欠損金及び期限切れの欠損金については、損益通算できます(法人税法59条3項)。

企業再生計画の策定に当たって、債権者から債権放棄の同意を得ることに多くの心血を注ぐことになります。しかし、それで慢心してはいけません。税法の世界では、債務を免れたというただそれだけの利益が、現実に流入してきた経済的利益に対する価値と同視されてしまい、課税原因になってしまうことは肝に銘じてください。

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