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あなたの財産承継に関する悩みに答えます

平成28年10月19日

8.種類株式の活用(取引先からの資金援助)

事例

① 私は、A株式会社の代表取締役ですが、独断で海外投資に手を出した結果失敗し、多額の負債を発生させてしまいました。その結果、A社は今期1,000万円の赤字決算の見込みです。

② 近々大型案件の受注予定があるのですが、成約に至ったとしても入金が数ヶ月後になります。また、依頼を受けた場合に業務を行うための設備が古くなっているため、新たに設備投資が必要なのですが、そのための資金が足らなくて困っています。

③ そこで、古くからの取引先で親交のあるB株式会社の代表取締役Yに資金援助を求めたところ、Y からは資金援助を行う代わりに、今後のA株式会社の経営が私では不安なので、B株式会社の人間をA株式会社の経営陣に加わることを求められました。

なお、A株式会社はB株式会社に対して買掛金が1,000万円あります。

④ 私としては、海外投資に手を出して失敗した自身の経営判断を深く反省しているので、Yの提案を受け入れる方向で考えております。

そのためにとっておくべき対策などはありますでしょうか。

なお、私はA株式会社の100%株主であり、A株式会社の総発行株式は400株、1株あたりの適正価格は5万円です。

このまま成行きに任せれば…

このまま何もしなければ、今期1,000万円の赤字決算となり、仮に債務超過の状態になれば銀行からの追加融資も断られる可能性が高くなります。そうすると目の前に大型案件の受注予定があるにもかかわらず設備投資に必要な資金を確保できないため受注を断念せざるを得ず、資金繰りに窮し、将来的に経営の危機に陥る可能性があります。

あなたの場合、今回幸いにも、親交のあるB社が資金援助を申し出てくれていますので、A株式会社とB株式会社の双方の思惑に沿った方向に進むように、以下のような対策を考える必要があります。

対策

DESの活用

今回、B株式会社が資金援助を行う代わりにA株式会社の経営陣に加わることを希望しているとのことですので、B株式会社の出資に対して株式を発行することが考えられます。その際、B株式会社はA株式会社に対して1,000万円の買掛金があるとのことですので、B株式会社の買掛金を免除してもらい、免除相当額を新株発行に対する払込代金に充当するという、いわゆる「DES(デット・エクイティ・スワップ」という方法を行うことが考えられます。そうすると、A株式会社としても買掛金がなくなりますので、赤字決算を免れることができます。

各種種類株式の活用

(1) 役員選解任付株式

1,000万円の債務免除に対してB株式会社に対して発行する株式は200株となりますが、Xがすでに400株保有していますので、B株式会社は全株式の3分の1の割合しか占めることができず、B株式会社側の意見を決議に反映させることが困難となります。そうすると、B株式会社としてはA株式会社が今後誤った経営判断を行わないようにしていくことが目的であるにもかかわらずその目的が達成できなくなりますし、取締役として経営陣に加入しても解任されるリスクがあります。

そこで、B株式会社の納得を得るためには、B株式会社に対して発行する株式を「役員選解任権付」株式にするのが良いでしょう。そうすることで、YあるいはB株式会社が推薦する役員については、B株式会社が保有する種類株式のみで構成される「種類株主総会」で選任や解任がされることになりますので、A株式会社の意向に関係なく取締役としての地位を保持することが可能になります。

 

(2) 拒否権付株式

また、B株式会社に対する株式を「拒否権付」とすることで、特に重要な決議については、B株式会社が拒否権を発動して決議を否決できるようにすることが良いでしょう。拒否権を発動できる決議を限定しておくことで、日常的な決議については全株式の3分の2を保有するXが自由に決議することができます。

拒否権の内容は定款に記載する必要がありますが、例えば、

「次の決議においては、株式総会もしくは取締役会の他に、種類株式を有する株主を構成員とする種類株主総会の決議を要する。

(1)合併、会社分割、主要事業の譲渡等の組織再編行為

(2)○円を超える借財及び投資等の実効」

との規定が考えられます。

 

(3) 取得条項付株式、取得請求権付株式

ただ、拒否権付株式はその効力が大きいので、あまり長期間にわたって維持することは望ましくありません。将来的には、定款規定を解消して普通株式に戻すか、「取得条項付」株式としておきA株式会社が取得した上で株式消却を行うといった手当をしておくことをお勧めします。

さらに、今後B株式会社が資金回収を図る機会を確保するため、「取得請求権付」株式とし、取得請求価格を時価とする方法も考えられます。

  

なお、税務上の取扱については、「拒否権付」株式であろうと「役員選解任付」株式であっても普通株式と異なる相続税評価がなされるという扱いにはなっていません。

 

(4) 属人株

拒否権付株式とした場合、上記のような拒否権の内容はA株式会社の登記簿に記載され、外部から容易に認識されてしまうことになります。そうすると、現代表者であるあなたの地位が不安定であるとの印象を抱かせてしまう可能性があります。そこで、定款に定めるだけで成立し、登記簿への記載が不要でありながら拒否権付株式と同様の効果が得られるという意味で、いわゆる「属人株」という株式を導入も考えられるところです。

属人株とは、定款で株主ごとに配当・残余財産の分配・議決権について異なる定めをした株式のことで、株式自体の性質を変更するのではなく、株主の属性によって効力を異ならせることができるものです。

例えば、以下のように定款に記載することが考えられます。

「第○条(株主総会における議決権について株主ごとに異なる定め)

B株式会社の有する株式は、次の決議においては、1株につき2個の議決権を有するものとする。

(1)合併、会社分割、主要事業の譲渡等の組織再編行為

(2)○円を超える借財及び投資等の実効」

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