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あなたの財産承継に関する悩みに答えます

平成28年9月6日

6.遺言と種類株式の活用(遺留分対策)

事例

① 私は、株式会社Aの創業者であり、代表取締役をしています。
 株式会社Aの発行済み株式1,000株すべてを私が保有しています。なお、1株あたり評価額は10万円です。

② 私は妻に先立たれ、株式会社Aの専務取締役となっている長男Xと、大学卒業後地元を離れ、民間企業に就職している次男Yの2人の子どもがいます。

③ 私の財産としては、自社株式のほかに、現在長男が居住する土地(120㎡、路線価6,000万円)建物(固定資産評価額1,000万円)と、現預金が2,000万円あります。

④ 私も高齢ですので、そろそろ代表取締役の地位を引退し、会社の経営を長男に任せたいと考えています。なお、長男には現預金があまりありません。


長男には、会社を安定的に経営できるだけの株式と、現在居住している不動産をそのまま相続させたいと考えているのですが、長男が相続税を払えるか心配なのと、次男にも遺留分という権利が発生すると聞いたことがあるので、どのようにするのが一番良いのか教えてもらいたいです。

このまま成行きに任せれば…

あなたの相続人は長男と次男の2人で、それぞれの法定相続分は2分の1になりますので、何も対策を講じなければ、次男が法定相続分2分の1を主張した場合、あなたの遺産の総額(株式1億円+不動産7,000万円+現預金2,000万円の合計額1億9,000万円の2分の1である9,500万円分の遺産を次男が取得することになります。

また、相続税の計算をしてみましょう。あなたのケースでは、長男が現在居住していますので、土地については「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」が利用できる場合があります。本件は「特定居住用宅地等」に該当するところ、最大330㎡まで、相続税評価額の80%が減額されます。そうすると、土地の評価額は、6,000万円×20%=1,200万円となりますので、

課税総額:1億4,200万円-3,000万円-1,200万円=1億円

相続税総額:(5,000万円×20%-200万円)×2=1,600万円

となりますので、長男と次男がそれぞれ2分の1である800万円を負担しなければなりません。

長男が不動産を取得する分、次男が現預金の大部分を相続するとなると、長男が相続税の支払に窮することになりかねません。一方、株式については、遺産分割協議が未了の場合は長男と次男の準共有というかたちになり、会社の意思決定が困難になる可能性があります。また、次男に現預金をすべて相続させたとしても、法定相続分9,500万円に満たない7,500万円分の株式を次男に相続させる必要があることを考えると、次男が過半数の株式を有することになり、長男が安定的に経営を行うことが難しくなってしまいます。

対策

(1)遺言の作成

あなたが遺言を作成することで、長男に多くの遺産を相続させるという方法が考えられます。とはいえ、あなたも懸念されているように、次男には遺留分を請求できる権利が発生しますので、その配慮が必要です。あなたのケースでは、遺産総額が1億9,000万円ですので、その4分の1である4,750万円が次男の主張できる遺留分額ということになります。よって、あなたが亡くなった後に遺留分を巡る争いが起こらないようにするためには、次男にも4分の1である4,750万円を相続させるように遺言を作成しておく必要があります。

そこでまず考えるべきことは、家族会議を開くなどして、次男に対して事前に遺留分を放棄してもらうよう話をし、次男に納得してもらうよう努力することです。遺留分を放棄してもらう代わりに、現預金のうちいくらかを次男に生前贈与しておくことも考えられます。次男が遺留分放棄に納得してもらえる場合は、事前の放棄には家庭裁判所の許可が必要になりますので、きちんと手続を行ってもらうようにしましょう。

一方で、前で述べた相続税の支払も考慮にいれなくてはいけません。長男が4分の3を相続することになると、その相続税負担額は1,600万円×3/4で1,200万円となります。長男には現預金がほとんどないということですので、この納税資金をあなたの現預金を相続させることで準備させることを考えると、長男には現預金の中から1,200万円を相続させる必要があります。そうすると次男には800万円しか現預金を相続させることができず、不動産は長男にそのまま相続させたいことを考えると、次男には遺留分額に不足する分を株式で相続させる必要が生じます。その金額は遺留分4,750万円から現預金の相続額800万円を控除した3,950万円となり、株式会社Aの発行済み株式のうち395株を相続させなければなりません。

そうすると、長男が相続できる株式は605株ですから、発行済み株式総数の過半数は有するものの、重要な決議事項を決めるための3分の2の議決権は得られないため、次男に配慮しながら経営判断を下さなければならなくなります。

そこで、その対策として、種類株式の活用が考えられます。

 

(2)種類株式の活用

次男が取得する株式については、「完全無議決権株式」にすることが考えられます。そうすることで、議決権を有する株式を長男がすべて保有することになるので、経営判断を行うにあたっての障壁はなくなります。ただ、次男に不公平感を与えないためにも、次男が取得することになる株式を同時に「配当優先株式」にもしておいた方が良いでしょう。つまり、(1)で述べた通りに相続させるのであれば、395株についてのみ完全無議決権かつ配当優先株式に転換するのです。

また、将来的に次男の株式が散逸されることを防ぐために、一定の場合(例えば、株主が死亡した時や取締役会が定める日を経過した時、とすることも可能です)には、会社が次男の株式を買い取ることができるように、「取得条項付株式」にしておくことも良いでしょう。

なお、発行済み株式の一部を上記のような種類株式に変更する場合、定款の変更とともに全株主の合意が必要であるとされていますが、現状あなただけが株主ですので問題はありません。また、議決権制限株式と通常株式とでは税制上の評価に差はありませんので、相続税の課税金額が変わってくるという心配もありません。

その上で、あなたは、普通株式については長男に、種類株式については次男に相続させるという内容の遺言を作成しておくのです。

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