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あなたの財産承継に関する悩みに答えます

平成28年6月21日

5.民事再生手続きを利用する

① 私は65歳で、果樹園(梨)と果物輸入、販売を行う株式会社を経営しています。長男(38歳)が大学を卒業して、妻と一緒に会社を手伝ってくれています。

② もともとは祖父が果樹園を買って、梨を育てながら、周りの梨園からも梨を仕入れて自前の選果場で分別して販売していました。父の代になり、世間で海外の珍しい果物の需要が高まってきたことに目を付け、株式会社化するとともに、借金をして港の近くに特殊な冷蔵倉庫を数棟建築し、輸入果物販売のための従業員も十数名雇用し、海外の珍しい果物の輸入、販売にも手を広げました。

③ この輸入果物販売は、当初は面白いほどの利益を上げていたのですが、商社の参入等により徐々に競争が激化し、利益が上がらなくなってしまいました。また、不況が長引く中、高価な輸入果物が売れなくなってきたこともあり、10年ほど前からは赤字に転落しました。徐々に赤字幅も増えてきており、このままではおそらく2,3年で会社を維持できなくなると思います。

④ 私の試算では、従来の梨の販売に特化すれば、それ自体では何とか黒字が確保できるのですが、果物の輸入販売部門の借金が5億円もあり、その関係の従業員を全員解雇して、港の近くの冷蔵倉庫全部を売却しても2億円ほどの借金が残ってしまうという状況です。私も勿論連帯保証をしていますが、自宅土地建物も会社の不動産同様、会社の借金のための担保に入っており、これをすべて処分しても1億5000万円ほどの借金が残ります。梨の販売だけでこの借金を返済していくことは無理ですし、梨の関係の選果場や果樹園を売却しても、おそらく5,000万円ほどの借金が残ってしまいます。かといって、果物の輸入販売部門を黒字に転換する方法も思い浮かびません。

ポイント

後継者への財産承継の前さばきとして、民事再生手続きを利用して、債務をカットしてもらうともに、事業をスリム化する方法もあります。

何も対策を採らなければどうなるか

会社と個人の資産を全て売却しても5,000万円の借金が残るのであれば、会社も貴方も破産を申し立てることになるでしょう。会社を5億円以上で買ってくれる(会社の価値が5億円以上あると思ってくれる)会社があれば一応破産は免れますが、会社の有する不動産価値が3億円で、輸入果物販売に見通しがないとすれば、よほどのことがなければプラス2億円を付けて買ってくれるところはないと思われます。従業員の雇用も確保したうえで、ということになればなおさらです。しかし、梨の販売に特化できれば、それはそれで事業として成り立つとのことですから、出来れば破産は避けたいところです。

改善策

貴方の場合には、従来の梨の販売部門に特化すれば黒字が確保できるということですので、会社については、従来の梨の販売部門を残す形態の、自力再生型民事再生手続き(但し、貴方個人に関しては破産手続き)を採られるのが最良の方法ではないかと思われます。

ただ、自力再生型民事再生手続きを採る場合、手続きそのものは弁護士等の専門家にお任せ頂くとして、事業として生き残るための前提として、留意しておいて頂きたいことがいくつかあります。

民事再生手続きには、手続き開始時点で、(破産手続よりも)多額の費用が必要になります。会社の規模や状況により異なりますが、裁判所に納めるお金と弁護士費用がそれぞれ数百万円ずつは必要になります。破産でもそうなのですが、入ったお金を全て支払いに充当してしまい、無一文になっていますと破産や民事再生の手続きすら始められません。民事再生の場合はそのお金が少し多めに必要になりますので、尚更そういうことになるということです。

債権者は、債務者に破産されてしまうと、(担保を有している債権者を除き)配当しか得られません。逆に言いますと、破産された場合に得られる配当以上の返済を得られるのでなければ、民事再生手続きに賛成して貰えません。つまり、破産した場合に予定される配当額を計算し、それ以上の弁済ができるような再生計画を立てられるか否かが一つの試金石になります(清算価値保証の原則)。

貴方の「再生計画」の基本は、「従来の梨の販売部門を残す」ということのようですから、支払い原資は「梨の販売により得られる利益」ということになります。つまりこの利益からどの程度を返済に充てられるかが問題です。

(1) 「従来の梨の販売部門を残す」と言っても、果樹園や選果場といった不動産にも担保が付されている場合、この担保権を実行されてしまうと事業の継続は覚束なくなります。担保権者は、原則として、民事再生手続とは関係なく担保権を実行できますので、事前に、担保権を実行しないという約定を取り付けておく必要があります。これを「担保協定(別除権協定)」と言いますが、担保権者は担保不動産を競売すれば得られる金額については優先権を持っているわけですから、その金額を幾らと見積もり、幾らずつ、何年で返済するかがこの「担保協定」の内容になります。その返済が滞らない限り担保権は実行しないという約定になるわけです。貴方は選果場や果樹園の価値を概ね1億円程度に見積もっておられるようですが、見積もった不動産価値が高過ぎますと他の債権者や裁判所の同意(許可)は得られませんし、低額過ぎるとその担保権者が同意してくれませんので、「担保権者と合意できる適正価値はどの程度か」を考えなければなりません。一般論としていえば、競売に付された場合どの程度の値がつくか、を基準に話をすることになります。そして、最後に、これは全債権者に対して行う弁済とは別に、担保権者に対して特に支払うものですから、それだけの利益を「従来の梨の販売」で確保できるのかどうかを検討しなければなりません。仮に選果場や果樹園の価値を7,000万円と合意した場合は、無担保債権者に対する支払プラス7,000万円が返済の対象になるわけです。

(2) 破産配当以上の金額について一部弁済を行いたい、という場合、その期間が問題です。民事再生手続きの方法としては、「事業譲渡型」と「自力再生型」がありますが、「事業譲渡型」の場合は、事業そのものを売却し、その対価を一部弁済に充当しますので、破産同様、一度の支払いで済みます。事業は受け継がれますが、事業者である貴方は基本的に埒外になります(事業を譲り受けた会社に、いわば支店長のような形で雇用されるという例はありますが、それが保証されているわけではありません)。これに対して「自力再生型」では、貴方の会社自体が生き残りますが、年々の利益から返済を行うので、一度に返済というわけには行きません。これが何年かかるかの問題が生じます。

①  例えば、上記の例をそのまま用いますと、担保協定で7,000万円が必要で、加えて一般債権者に対する一部支払いが必要になります。仮に破産する場合は配当原資として700万円程度しか確保できないという場合、これより多くの弁済が必要ですので、仮に総額で1,000万円を支払うということなら、計8,000万円が必要になります。

②  前記のように、これを「従来の梨の販売事業」の利益で返済していくわけですから、まずは、「従来の梨の販売事業」で年間どの程度の利益を上げられるかの試算をすることになります。勿論、この計画が成り立つには、「従来の梨の販売事業」の関係者(梨の仕入れ先[生産者]、箱詰めや流通に関係する業者さんたち)の協力が得られることが最低限必要になります。何といっても民事再生を行う以上、民事再生開始時点でそういった方たちに負っていた負債も一旦は支払いが止まりますし、この方々達だけには全額返済するというわけには行きません。「破産配当プラスアルファ」程度の支払いで一旦は我慢して頂かねばならないのです。そういう方々が、「民事再生をしたい」というだけで、今後協力して下さるかどうかの問題があるわけです。最低限、しばらくの間は現金商売になるという程度のことは覚悟しておく必要があります。その現金を銀行から借り入れることもできないという事態を覚悟しなければならないわけです。

③  上記の事態は、「法律上」というよりも、「経済的実態」の話ですから、従来の梨の販売業で、どの程度の信用を得ていたか、協力しても良いという取引相手がどの程度確保できるのか、という話になります。

④  上記の例では、一般債権者に対する一部支払いで1,000万円が必要です。そこで、一体「従来の梨の販売でどの程度の利益が上げられるか」という見通しが必要になります。民事再生の期間として認められるのは、最長で10年と考えられていますので、最低でも年間100万円が支払い原資としうる利益を上げられないのであれば、そもそもこの再生計画は立てられなくなります。そこに加えて、上記「担保協定」の7,000万円の支払いの問題があります。担保協定の期間は、普通は再生期間に一致させます(担保権者がそのように要求します)ので、やはり最長10年になり、そうすると計算上は年間700万円の返済原資が必要となりますので、年間800万円を返済原資として用意しなければならなくなります。

⑤  以上によりお分かり頂けると思いますが、再生事業に不動産が必要で、かつその不動産が担保に供されている場合には、その不動産を使用し続けるためにかなりの返済資金が必要になってきます。もし、従来の梨の販売事業で返済原資に充てられるのは、どう頑張っても年間500万円が限度だ、という場合、無担保債権者に対する一部支払いの年間100万円は確保できますが、担保権者に対する年間700万円は、その内400万円は何とかできるが、それ以上は無理だ、ということになります。

⑥  ただ、担保協定はあくまで担保権者との合意ですから、例えば、「年間400万円ずつ支払って、10年目に足りなくなる3,000万円を併せて支払う」という合意も、担保権者が了解するなら一応可能です。何といっても10年計画という長丁場ですから、最初は上手く行っても、思ったほど利益が確保できなくて途中で破産に至る例もあるわけですし、逆に、景気が良くなって行けば、10年後にはまとめて支払えるかもしれません。仮にそれができなくても、10年間コツコツと返済を続けていけば、10年後足りない分について、また更に分割支払いの合意ができるかもしれません。

⑦  担保権者も、要は、「今破産されてしまうか」、「10年間の猶予を与えて様子を見るか」の選択ですし、担保は残っていますので、後者を選択してくれる場合も、案外あります(あくまで担保権者の意向次第であり、法律上請求できることではありませんので、確実性はありませんが、お願いしてみる余地はあるでしょう。)。

⑧  中間的には、例えば自前の果樹園は売却し、梨の販売は他からの仕入れ一本にして、できるだけ被担保債権を減少させるということも考慮してみる必要があります(これは、再生当初は「現金仕入れ」になるというデメリットから自前の果樹園は残したいという考えもあり得ますので、果樹園を残すことのメリットと売却することのメリットを総合的に判断し、それを担保権者との話し合いで理解して頂く必要があります。)。

⑨  以上により、自力再生型の民事再生は、法律上の要件もさることながら、要は、残したい事業に関連する債権者の方々に「この会社が再生するのであれば、協力してやっても良い。」と思って頂けるか否かの問題という側面がかなりあります 。(

最後に留意して頂きたいのは「債務免除益課税」の問題です。例えば上記の例で一般債権が1億5,000万円残り、そのうち1,000万円を支払うという民事再生計画が認可されたとします。このことは、債権者の側から見れば1億4,000万円の債務免除を余儀なくされたということになります。そしてこの債務免除は再生会社にとっては「益金」扱いされ、法人税の対象になります。

① ただ、従来生じていた欠損金と、この益金は、いわば相殺勘定にできますし、欠損金の範囲としては、過去に生じたすべての欠損金を使えます。本件では10年ほど前から欠損金が生じていたとのことですので、10年間のすべての欠損金を、この1億4,000万円の益金を消すために使用できます 。()残りが生じた場合にのみ、その残金に対し、「債務免除益課税」がなされることになります。

② 例えば10年間で計1億円の欠損金が計上されていたのであれば、4,000万円が「債務免除益課税」の対象になります。それでも、法人実効税率が概ね30%とすれば、1,200万円ほどの納税の必要が生じます。

③ 案外見落としやすいことですが、民事再生計画を立てる場合、この債務免除益課税の問題が必ず生じますので、過去の欠損金で消せるのかどうかを調査し、仮に債務免除益が残ってしまう場合はその納税資金確保も考えておかねばなりません。

④ 欠損金も出さずに順調に経営が行われていた会社が、急に経営が悪化したような場合には、欠損金が殆どありませんので、上記の場合には1億4,000万円の30%で、4,200万円ほどの納税資金を別途考えねばならなくなり、そのため「自力再生型」の民事再生はあきらめざるを得なかったという例も多くあるのです(日本の民事再生で「事業譲渡型」が多い理由の一つにもなっています。)。

⑤ つまり、せっかく10年間の再生計画を立てて、債権者の方々も了解して下さったとしても、例えば「再生計画認可決定の時点で債務免除が行われる」ような計画にしてしまいますと、その時点で債務免除益が発生し、翌年に、上記の例では1,200万円を支払わねばならなくなります。この税が支払えなくて破産手続きに移行しなければならないというのでは、何にもなりません。しかし、実際には、税金のことをあまり知らない弁護士だけの関与で再生計画を立ててしまい、「税金破産」せざるを得なくなったという例もなくはないのです。民事再生手続きは、税理士も関与するか、税の問題も知っている弁護士が関与する必要があります。

⑥ 従って、多くの場合、債務免除は再生計画の最終段階で行われることにするか、毎年の支払ごとに少しずつ債務免除が行われることにする、という例が多いようです。上記の例で、例えば債務免除益課税として1,200万円の納税が必要になるのであれば、これを後に回してしまうか、毎年120万円ずつ支払えば良いように、順次債務免除が行われるようにするか、いずれにするかは、やはり毎年どの程度の利益を計上できるのか、を基本として計画を立てることになります。

 

まとめ

以上のように、事業を承継するための前さばきとして、民事再生手続きを利用することができます。この前さばきを成功させるためには、取引先からのこれまでの信頼とこれからの信頼を確保することが必定です。加えて、物言わぬ債権者である課税当局の存在を忘れてはいけません。

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