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あなたの財産承継に関する悩みに答えます

平成28年5月10日

4.少数株主の反乱

① 私は、会社の創業者であり社長(代表取締役)で、40%の株式を所有しています。妻は会社経営にはタッチしていませんが、会社の監査役で、20%の株式を所有しています。

② 私には長男と長女がいます。ゆくゆくは長男に会社の経営を継がせたいと思っています。 そこで、私は長男に対し、既に株式9%を譲渡しています。長男は、現在、上場会社に勤務していますが、やがてそこをやめ、会社の経営を引き継ぐつもりでいます。長女は、結婚して専業主婦として平凡な生活を送っており、会社経営に全く興味はありません。

③ 常務取締役Aは、会社創業時以来私の片腕として協力してきており、20%の株式を所有しています。平取締役Bは、11%の株式を所有しています。

④ 会社は小規模閉鎖会社であり、定款で株式の譲渡制限を定めています。また、株式が分散してしまうことを回避するために、死亡後に、会社が相続人からその株式を買い取れる制度も定款に定めています()。

○条 会社は、自社の株式を相続その他の一般承継により取得した者に対し、当該株式を自社に売り渡すよう請求することができる。

⑤ 事業承継対策としては、これで万全でしょうか。

ポイント

事業承継の良かれと思って準備した制度が、会社法の仕組によって、反対の効果をもたらすことがあります。

何も対策を採らなければどうなるか

1  明日、あなたが亡くなったとします。もし、これを奇貨として、常務取締役A、Bが結託して、会社の支配権を取得しようと、あなたの相続人である妻、長男及び長女に対して、本条項に基づき、株式買取請求権を行使してきた場合、会社の支配権は、あなたの一族からA、Bに移ることになります。

2  AまたはBが「相続人からの株式の買取の件」という議題で、臨時株主総会を招集します()。これをあなたの相続人は阻止できません。

3  あなたの相続人は、臨時株主総会において、議決権を行使することはできません。これをあなたの相続人は阻止できません()。

4  この場合、相続人に対する株式買取請求権の決議方法については、特別決議が必要になります()。被相続人からの相続分40%、相続人妻の20%及び相続人長男の9%、合計69%が議決権を行使できないことになります。株主総会の定足数にも参入されません。つまり、議決権を有する株主は、AとBだけということになり、AとBで31%の株を保有していますから、全員一致の決議となり、特別決議の要件も満たすことになります。

5  仮に、40%が会社に買い取られてしまうと、それは自社株になり、議決権がありませんので、その後の決議はAとBの31%対妻と長男の29%の争いになり、通常決議で足る議案ではA、Bの提案が可決されることになります。

6  こうして、会社のクーデターがおこり得るのです。

もっとも、40%の株式の買い取り請求権は、①相続時から1年以内に行使すること、②売買価格の協議が整わない場合、裁判手続により「公正な価格」が具体的に決定されること、③買取総額は分配可能額を超えることができないこと、という制約はあります()。

実際問題としては上記③の要件は、(クーデターを起こす側から見ると)かなり厳しい要件です。何故なら、小規模閉鎖会社の株式価格の評価は主として会社の純資産を基準にする純資産方式ですので、40%の株式全部を買い取るためには、基本的に、会社の純資産額の40%ほどが主として剰余金として存在する必要があるからです。従って、普通の会社で本件スキームによるクーデターを成功させることはなかなか困難ですが、逆に言うと、せっせと剰余金をため込んでいる会社ほどクーデターは生じやすいとも言えます。ただ、会社が株式を買い取る際に相続株の全株を買い取る必要はありませんし、分配可能額の範囲で株式が買い取られた場合、その後の株主構成の相対的比率に変動が生じることは避けられません(少数株主の相対的株主構成比率は上昇します)。クーデター成功にまでは至らなくても、その後の経営の不安定要因になることは間違いないでしょう。

改善策

ご相談のケースでは、一定数以上の株式を持っていれば、誰でも株主総会を招集し、議題を提出できること、持ち株割合の大小にかかわらず、相続人になったものは、議決権を行使できなくなってしまうという会社法の仕組みをきちんと理解していなかったことによるものです。

どうも、会社法174条の規定は、諸刃の剣なので、本件のようなケースでは、そのままの適用を差し控えることにします。

 

そもそも、会社が相続時に相続人から株式を強制的に取得できるようにした趣旨は、株式の分散を防ぐことにあろうかと思います。つまり、これまで信頼関係もあり、よく知った仲間と違うよそ者が会社の所有者になることを防止し、会社の支配関係の同質性を保つことにあろうかと思います。しかも、その対象は、オーナー企業一族以外のものが取得した場合ということになろうかと思います。

 

だとすれば、例えば、以下のようなアプローチがあります。

 

1 本条項の規定を修正する

会社法174条に基づく定款の発動の対象を、オーナー一族以外の者が相続した時に限る、という規定にすることも考えられるでしょう。

つまり、本条項を以下のように修正することになろうかと思います。

○条 会社は、A又はBより、自社の株式を相続その他の一般承継により取得した者に対し、当該株式を自社に売り渡すよう請求することができる。

そのためには、株主総会の特別決議が必要となり、反対株主は買取請求権を行使することができます()。

2 本条項の規定を維持する

オーナー一族の相続の際に、本条項が適用されないようにするために、オーナー一族の株式の所有方法について工夫することも考えられるでしょう。例えば、オーナー一族の株式を一般社団法人に対して株式を拠出する方法が挙げられます()。この場合、本条項の規定をそのまま維持するのであり、株主総会の特別決議は不要です。

しかし、そのための現物出資は、所得税法上譲渡に当たるので、譲渡所得税が課税されることになります。また、別法人ができることにより、別に法人税及び法人住民税等が課されることになります。

 

3 本条項の規定を削除する

せっかく特別決議を経て本条項を追加したのですが、思い切ってその規定を削除し、別の方法を考えてみましょう。

今、AとBの了解が得られるのであれば、それらの株式を「取得条項付株式」に転換しておくことが考えられます。もともと、本条項により本全部取得条項付種類株式を利用することにした目的は、オーナー一族の会社の安定支配のためです。そこで、AまたはBの相続開始時に、会社が所定の条件でその株式を取得できるようにするのです。その際、会社による株式の取得と引き換えに、会社が他の種類の株式を交付する場合と現金等を交付する場合に分けられます。前者の例としては、無議決権株式を交付するなどして、会社の支配関係の同質性を保つことができます()。

しかし、前者の場合は相続人が株主であることには変わりなく、また、後者の場合は、排除できるのですが、財源規制と配当課税が及びます()。

 

4 まとめ

オーナー一族にとって、会社の支配関係の同質性を保ち、事業承継しようとする場合、その内実は、他の共同所有者における財産承継を犠牲にするものです。共同所有者の権利に係るものであり、ここにメスを入れるためには、様々な制約が出てきます。何を採って、何に妥協するか、悩ましいところです。多面的な検討が必要なゆえんです。

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