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あなたの財産承継に関する悩みに答えます

平成28年4月13日

3.相続税対策

私は、現在65歳で会社の役員をしています。妻には3年前に先立たれました。子どもは、長男と長女の2人です。長男は大手企業に勤め、持ち家に住んでいる。長女は結婚して夫の社宅に住んでいます。私自身の財産は、自宅、駅近の空家と預貯金を2,000万円ほど持っています。

自宅は、土地2,000万円、建物1,000万円程度の価値があります。

駅近の空家は、土地8,000万円、建物2,000万円程度で、マンションの土地の所有権割合で算出した面積は80㎡です。

また、会社の役員をしていることから、死亡した場合に死亡退職金が2,000万円出ます。受取人は第一順位を妻にしていましたが、妻は先になくなってしまったので、第二順位の長男と長女に1,000万円ずつ渡ることになります。

私が死亡したときに、子供らの相続税の負担をできるだけ少なくするために、何かいい方法はありますでしょうか。

このまま成行きに任せれば…

このまま何も対策を取らないと、どれくらいの相続税を払わなければならないか、相続税計算コラムにあてはめて考えてみましょう。

まず、相続財産の合計額ですが、

・自宅土地建物    3,000万円

・駅近空家土地建物  1億円

・預貯金       2,000万円

今後、預貯金をどの程度使われるか分かりませんが、とりあえず、亡くなる時点で2,000万円が残っていると仮定して計算してみます。

すると、上記の財産の合計額は1億5,000万円になります。

これに、「みなし相続財産」である死亡退職金を加算します。死亡退職金には、500万円×法定相続人分の非課税枠が設けられておりますので、これを控除した1,000万円を加算します。

あなたが亡くなったときの葬儀費用として100万円かかるとしましょう。これらを加算、減算すると課税対象となる財産の評価額は1億5,900万円になります。

 

ここから、基礎控除額を差し引きます。

基礎控除額は、

3,000万円+2名(法定相続人数)×600万円=4,200万円

となるので、

1億5,900万円-4,200万円=1億1,700万円

が課税遺産総額となります。

 

次に、相続税額合計を出すにあたっては、一旦、法定相続分で遺産を分割したと仮定して、計算します。

そうすると、5,850万円ずつ相続することになります。

5,850万円×30%(税率)-700万円(控除額)=1,055万円

1,055万円×2=2,110万円

が相続税額合計となります。

今回は法定相続分で遺産を分けているので、相続税額も、それぞれ1,055万円ずつです。

ここから、各人について税額を減らせるかどうかを見ていくことになります。

   

考え方

あなたの場合、①資産を組み替えたり、②生前贈与を利用したり、③小規模宅地等の評価減の制度を利用するだけで、相続財産の評価額を減額することができます。

 

(1)資産の組み替え

あなたを被保険者(保険加入者)とし、長男と長女とを保険金受取人とする生命保険契約を締結することで、非課税枠を利用することができます。

あなたの死亡によって取得した生命保険金について、その保険料をあなたが負担していたものは、相続税の課税対象となります。

しかし、この死亡保険金の受取人が相続人であれば、上記の死亡退職金と同様、500万円×法定相続人の数の非課税枠が設けられていますので、これを超える部分が相続税の課税対象となります。

あなたの場合は、500万円×2=1,000万円が、非課税となります。

つまり、子のお二人を受取人として、非課税枠いっぱいの1,000万円を保険金とする一時払いの終身の生命保険契約を締結します。あなたの年齢にもよりますが、保険金額に近い額の保険料を一度に支払って下さい。こうすることで、相続財産の項目が、「預金等」から「保険金」の扱いになり、生命保険の非課税枠を利用することができるようになります。

非課税枠の範囲内であれば、一人の保険金受取額が500万円を超えていても(例えば、長男の受取額を1000万円、長女の受取額はなしとする場合)、非課税枠を利用することができます。

 

なお、注意していただきたいことは、預金→保険契約(経済的には、解約した場合の解約返戻金の額)になることから、手元で自由にできる資金が減ってしまうという副作用があります。当面必要な生活資金、老人ホームへの入居など入用がないか、臨時のための資金の余裕があるかについても、十分考慮に入れた上で、資産の組替えは行いましょう。財産以上の税金は課せられません。

 

(2)生前贈与

相続開始前3年以内の贈与財産については、相続税額を計算するにあたって、相続財産に組み戻すことになります。3年より前に贈与したものについては、組み戻す必要はありません。そこで、これから、毎年少しずつお子さんらに金融資産を贈与していくという方法が考えられます。

一度に巨額の資産を贈与すると、贈与税がかかってしまいます。贈与税の非課税枠(110万円)の範囲内で、不定期に贈与していくと良いでしょう。

 

(3)小規模宅地等の評価額の減額制度

あなたの長女は、その夫の勤務する会社の社宅に住んでおられるということで、長女夫妻には持ち家がないということですね。この場合、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」(以下、「本特例」といいます。)を利用することで、課税価格を減額することができます。

本特例は、一定の要件を満たす宅地等について相続税の計算上「課税価格」を減額することで、相続税額を減額できる制度です。

個人が、相続の開始の直前において、

①被相続人等の事業、又は

②被相続人等の居住の用

に供されていた宅地等を相続により取得した場合、選択により、限度面積までの部分(以下「小規模宅地等」といいます。)については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合が減額されます。

あなたの場合、②居住用の宅地の特例の利用が考えられます。対象となる居住用のものは、「特定居住用宅地等」と呼ばれ、最大330平方メートルまで、相続税評価額の80%が減額されます。

具体的には、2つのパターンが考えられます。

 

(ⅰ)直ぐに長女夫妻と駅前の建物に同居できる場合

長女の夫の勤務先が駅前の建物の近くである場合など、事情が許せば、長女夫妻と同居を開始してしまうことです。

あなたの死亡時に既にあなたが長女と同居していれば、本特例の恩恵を受けることができます。

評価額の減額分は、以下の式の通りです。

8,000万円×0.8=6,400万円 (300平方メートル≦330平方メートル)

 

(ⅱ)直ぐには長女夫妻と駅前の建物に同居できないけれども、将来は住むことができる場合

今直ぐ長女夫妻と同居できない場合は、

まず、あなたが現在のご自宅から駅前の建物に引っ越すこと
あなたは、死亡の直前において長女以外の推定相続人と同居しないようにし、
長女は、あなたが死亡する3年以上前から日本国内にある自己またはその夫の所有する家屋に住まないようにすること

で、上記(1)と同様の節税ができます。

③について、もし、長女またはその夫がマイホームを所有していながら、何らかの理由で社宅に住んでいる場合は、社宅を出てからも、マイホームを他人に貸すなどして、マイホームに住まないようにする必要があります。また、人の寿命は神のみぞ知るところ、将来あなたにもしものことがあった時から遡って3年以上前から、長女夫妻がマイホームに住まないようにする必要があります。

 

なお、(1)(2)のいずれの場合についても、長女が駅前の土地建物を取得し、申告期限(つまり、あなたが亡くなってから10カ月)内に、相続税の申告に合わせて、本特例の適用を申請することが必要になります。

また、他に、現在の住居をもって本特例の申請((ⅰ)(ⅱ)と同じ条件で)をするとともに、駅前の土地については、第三者に貸付を開始することでも本特例の適用を申請することで、相続税評価額を減額することができます。この場合、現在の住居の宅地の面積 × 200/400+駅前の土地の宅地の面積× 200/330≦200平方メートルの条件が付け加わります。

例えば、現在の住居の宅地全部について、本特例の申請をしたとすれば、駅前の貸付用土地の適用限度(X)は、

80(自宅土地)×200/400+X(駅前土地)×200/300 ≦ 200

X≦(200-40)×300/200

X≦240平方メートル

となります 。

   

以上の通り、何も対策を講じない場合と比べて、上で述べた(1)資産の組み替えと(3)(ⅰ)駅前同居を組み合わせると○円の評価額の減額ができます。

事前準備に当たっての注意

今回の節税の例では、現在自宅に住んでおられない長女が駅前の土地建物を取得することで、最も相続評価額を減額できる方法をご案内しました。

ここで、注意していただきたいことは、節税は手段であり、決して目的ではないことです。税金を安くすることばかりを考えていて、長男に相談せずに、長女とだけ話しあって、長女に駅前の土地建物を相続させるよう遺言したなら、きっと後で長男は気を悪くするでしょう。しかも、その時の長女の相続分が長男の遺留分を侵害していたならば、長男が長女に対して、遺留分減殺請求権を行使して、兄妹間の争いが生じる危険があります。かといって、あなたの相続の際に、長女が自分が駅前の土地建物を取得すれば、相続税が安くなるからと言いだしても、そのことで長男が何の得もしないのであれば、(2)のような分割はできなくなる恐れもあります。遺産分割協議がまとまらなければ、本特例の適用の申請ができず、一旦、原則通りの納税をしなければならなくなります(ⅱ)。

ですから、遺言をするにせよ、遺言をしないにせよ、長男と長女との間で十分に意思疎通を図るようにして下さい。

親としては、目先の節税が兄妹間の争いの原因になるよりは、二人が原則通りの税金を払っても争いにならない方がうれしいのではないでしょうか。

また、今、駅前の建物に移り住むとして、リフォームなどが必要になることでしょう。そのための費用負担も問題になります。第三者に対して貸し付けるにしても、家屋の管理をどうするかの問題も生じてきます。

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