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あなたの財産承継に関する悩みに答えます

平成28年3月9日

2.障害者の長男の生活保障

私には、妻と長男、次男がいますが、長男は重度の知的障害者で、1人で生活できません。
私は不動産(土地)を所有しており、大手メーカーの工場用地に貸しているので、月100万円の賃料収入があります。
私が死んだ後、妻に土地を管理してもらい、賃料で妻と長男の生活を確保してあげたいと思っています。また、妻の死後は不動産の賃料で長男が施設に入所して生活していけるようにしたいと思っています。
次男は、4年制大学を出て、東京で結婚して一部上場企業に勤めています。次男は一人で十分生きていけますし、私たち夫婦とはそりが合わないこともあり、特に財産を残してやるつもりはありません。
私の希望を叶えるためにはどうすればよいでしょうか。

このまま成行きに任せれば…

①介護施設の入所を、自分の意思で決められない可能性があります。

②あなたの財産を事実上管理する家族が、あなたの財産を使ってしまうリスクがあります。

あなたが亡くなると、相続人は奥さんと子どもさん2人ですが、それぞれの相続分は奥さんが2分の1、長男が4分の1、次男が4分の1となりますので、賃料100万円のうち次男が25万円を取得することになり、次男に財産を残さないという希望は叶えられません。

また、あなたがお持ちの土地は、相続人の共有になりますので、奥さんが土地全部を処分することはできません。例えば、賃貸借契約の変更、解除といった行為を行うためには、共有者全員あるいは過半数の持分を有する者が同意していないとできませんので、奥さんだけの判断では行えないことになります。

さらに、長男は重度の知的障害者であるとのことですので、あなたや奥さんが面倒を見ることが出来る間は良いとしても、亡くなった後ということになると、財産だけを残しても、長男自身でその管理が出来ません。次男に期待できれば良いのですが、次男にその意思がない、遠方に住んでいて難しい、などの事情で無理であれば、長男のために財産を管理してくれる人を決めておかねばないと、結局長男が生活していけるようにしてもらいたいというあなたの希望も叶えられないことになります。

 

考え方

奥さんを受託者、長男を第二次受益者として民事信託契約を締結し、財産の管理を委託する方法が考えられます。また、
成年後見制度を利用し、長男の身上監護を行う方法も検討が必要です。

1 遺言の活用その限界(→コラム「遺言について」「遺留分について」)

 

(1)土地を奥さんに管理してもらおうと思えば、土地を奥さんに全部相続させるという遺言を作成すれば、その目的を達成することができます。奥さんが賃料100万円を取得し、それで生活をして長男の面倒も見てくれるでしょう。

但し、ほかに財産がない場合、次男には遺留分という権利が生じ、これは法定相続分4分の1の半分ですから8分の1になります。次男に遺留分を放棄して貰えなければ、あなたの遺産の8分の1相当額を、何らかの形で確保しておく必要があります。

(2)仮に、不動産の評価額が6000万円で、預貯金が2000万円の場合、次男の遺留分は8000万円の8分の1である1000万円になりますので、次男が遺留分の権利を請求してきた場合、奥さんは、相続した預貯金の中から1000万円を次男に対して支払う必要があります。

(3)同じ事態は奥さんに関しても生じます。奥さんの死後のことをあなたの遺言で定めておくことは出来ませんから、奥さんにも遺言書を書いて頂くことになりますが、すべての遺産を長男に相続させる場合、やはり次男には遺留分の問題が生じますので、奥さんにはその分を生前に用意しておいて頂かねばなりません。

2 民事信託制度の活用

(1)遺言だけでは、先に述べたあなたや奥さんが亡くなった後の長男の財産管理を誰がしてくれるのか、といった問題が残ります。生前に口約束で誰かに頼んでおくということもできますが、それが実行されるかどうかは分かりません。

そこで、民事信託制度を利用し、奥さんを受託者としてあなたの財産を管理してもらい、あなたが存命中は、あなた自身が受益者となって、長男の生活費や介護サービスに必要な費用など、知的障害を有する長男の生活を見るために必要な分の支出を受け、亡くなった後は、長男を受益者として、長男の生活資金を長期的かつ安定的に給付する方法があります。

(2)また、受託者である奥さんが亡くなる場合に備えて、信託設定時にあらかじめ、後継の受託者を決めておいた方が良いでしょう。ただ、後継の受託者として適任者がいない場合や、後継の受託者が奥さんの死亡時に長男の近くで生活していないことや、受託者として事務を行う意思がなくなっていること、後継の受託者の死亡のリスクもあります。長男の一生涯の生活を長期間、継続的に安定させるためには、受託者を親族にするのではなく、信託会社や信託銀行にするという方法が確実です。信託会社や信託銀行は信託業法等の法令や監督官庁の厳しい規制の中で業務を行うので、一定の信頼感はありますし、親族や専門家を信託監督人として設定するという方法もあります。ただし、一定の費用がかかります。

(3)先ほど述べた遺留分減殺請求は信託の場合も同様に問題となります。

信託行為が委託者であるあなたから受託者である奥さんに対する信託財産の移転が遺留分減殺請求の対象になる可能性があります。また、あなたが亡くなると、長男は信託が終了するまでの間、信託財産である不動産からの賃料収入を受け取ることができます。そこで、その受益権が遺留分減殺の対象となる可能性もあります。

信託と遺留分減殺請求の可能性については、信託制度が比較的新しい制度であることもあり、裁判例もほとんど見られず、実務上明確に確立されているとは言えないので、様々な見解がありますが(信託と遺留分減殺請求が交錯する場面については、今後具体的な事例をもとに連載予定です)、遺留分減殺請求を受ける可能性があることは否定できません。

そこで、遺留分減殺請求権を事前に放棄してもらうように次男に話をしておくことがベストです。遺留分減殺請求権は、相続開始後はもちろん、相続の開始前であっても家庭裁判所の許可を受ければ、遺留分減殺請求権を放棄することができます。

3 成年後見制度の活用

民事信託制度は財産についての管理処分行為を受託者に任せるものであり、基本的に身上看護は想定されていません。信託契約の中に、身上看護についての規定を盛り込んでおくということもできますが、例えば、長男を障害者施設に入所させる際の入所契約などは、原則本人の名前で契約する必要がありますので、受託者が行えない場合もあります。

そこで、奥さんが存命中は長男の身上看護を託せるとしても、奥さんが亡くなる場合に備えて、あらかじめ成年後見人あるいは保佐人を選任してもらうよう家庭裁判所に申立を行うという方法も検討された方が良いでしょう。

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