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あなたの財産承継に関する悩みに答えます

平成28年2月5日

1.認知症になる前に…

私は、現在、65歳です。昨年、定年退職しました。既に、妻には先立たれています。今は、元気ですが、家系的にみて、あと何年かすると認知症になるのではないか不安です。

私の財産は、自宅土地のほか、5,000万円の金融資産があります。年金は、月にして、手取りが20万円ほどあります。

近くには、一人娘の夫婦が住んでいます。娘婿が商売をしているのですが、どうも景気が良くなく、先行きが怪しいと思っています。

娘らに直接介護してもらいたいとは思っていないのですが、認知症になってしまったら、介護の手配はしてほしいと思っています。

私が病気になったり、認知症になった後でも、安心して老後を送るためには、予めどのような準備をしておけばよろしいでしょうか。

このまま成行きに任せれば…

①介護施設の入所を、自分の意思で決められない可能性があります。

②あなたの財産を事実上管理する家族が、あなたの財産を使ってしまうリスクがあります。

あなたが介護施設への入所手続きを行わないまま、認知症が進行した場合を想定してみましょう。

あなたが物事の是非が判断できず有効に意思を示すことができない状態に至ると、自ら介護施設との入所契約を締結することができなくなります。事前にいくつか施設を見学した上で、あなたが希望する施設を決めていたとしても、契約に必要な判断能力がなくなっている以上、契約当事者になれないのです。また、入所契約は、入所者本人が当事者となる契約ですから、娘さんが当事者となって介護施設への入所契約をすることもできません。

さらに、法的には、娘さんといえども、あなたの財産には手をつけることはできなくなります。つまり、娘さんがあなたの預金の払い戻しをしたり、あなたの財産を管理することはできなくなるのです。ふとしたことがきっかけで銀行が名義人であるあなたに判断能力がないものとの疑いをもった場合、銀行はあなたが判断能力を有していることの証明を求めます。あなたが認知症になる前に預金の引き出し行為を娘さんに頼む意思をもっていたことを明らかにしても何の証明にもなりません。結局、その口座が凍結されてしまいます。

とはいえ、現実には、本人の判断能力が低下しても、家族が事実上、預金口座からお金の出し入れをしていることが多いでしょう。その場合、あなたの老後は、娘さんが、あなたの財産を事実上適切に使用してくれるか否かにかかります。

「娘婿が商売をしているが、どうも景気が良くなく、先行きが怪しい。」とのことですが、娘さんがあなたのお金を、夫の商売の資金繰りのために使ってしまうというリスクが出てきます。

 

解決策

□ 娘さんとの間で民事信託契約を締結し、財産の管理を委託する方法

□ 娘さんとの間で任意後見契約を締結し、財産の管理に加えて、身上監護も依頼する方法

が考えられます。

 

(1)民事信託制度の活用

あなたを委託者兼受益者、娘さんを受託者として、民事信託契約を締結するという方法があります。

あなたが娘さんに信託した信託財産は、受託者である娘さんの名義となります(不動産登記や預貯金口座の名義を変更することになります)。しかし、娘さんはその信託財産を自らのために使用、収益、処分することはできません。信託目的の範囲内でのみ処分することができます。つまり、あなたの安定した生活と療養介護という目的のために所有権を持つに過ぎません。

娘さんは、あなたのために、必要な生活費や税金等の支払、介護サービス費用や医療費の支払などを行うことができます。また、毎月決まった金銭をあなたが受け取り、その範囲内で好きなものを購入することも可能でしょう。また、自宅土地を信託財産とすれば、施設に入所することになった際、自宅土地を売却したり、貸家として活用し、売買代金や賃料を生活費に充てるといった運用が可能になります。

娘さんご夫婦の商売が危機に瀕したとき、あなたの財産を使い込まれることを懸念されるのであれば、信託監督人を設定しておくのも一つの方法かと思います。

 

(2)任意後見制度の活用

あなたと娘さんとの間で任意後見契約を締結しておき、将来、自分が認知症になった場合の財産管理や介護施設との契約を行うといった事務を委任しておくといった方法をとることができます。

あなたの判断能力がなくなった後に娘さんが家庭裁判所に対して任意後見監督人の選任の申立を行い、任意後見監督人が選任されると、その監督のもと、任意後見人による後見事務が開始される、という流れになります。

娘さんが任意後見人に就任すると、財産管理を行ってくれるという点では民事信託と同じです。任意後見では、これに加え、娘さんに、介護施設の利用契約、介護サービスの利用手続、医療機関との契約締結等といった事務をしてもらうことができます(身上監護)。「施設の入所は自分の判断能力があるうちに、自分で決める予定」ということであれば、民事信託のみの利用で足りるでしょう。ですが、「判断能力がなくなった段階で、自分が希望している施設へ入所する手配をして欲しい」というご希望であれば、この任意後見を利用するのが良いでしょう。

入所したい施設の希望があれば、任意後見契約の締結時に、条件等を契約内容に盛り込んでおくと良いでしょう。

  

任意後見契約を締結しないで進めることも可能です。

あなたが認知症になる前に、娘さんに対して、「認知症になったら、法定後見を申し立てて欲しい。」と事実上依頼しておき、実際にあなたが認知症になった場合に、娘さんに申し立ててもらうのです。しかし、法定後見の場合は、必ずしも候補者が後見人に選任されるとは限りません。また、法定後見人は、あなたの身上監護及び財産管理に最善を尽くしてくれますが、任意後見の場合と異なり、契約関係で拘束されるわけではありませんので、あなたの希望を確かに実現させるためには、任意後見の方がお勧めです。

費用

民事信託の場合、受託者が娘さんではありますが、月額1~2万円の報酬を設定しても良いかと思います。

任意後見の場合も、信託と同様、月額1~2万円の報酬を設定しておくのが良いでしょう。任意後見監督人の報酬は、本件であれば月額2万5000円~3万円程度かと思います。

法定後見の場合、本件では金融資産が5000万円以上ありますので、後見人の報酬は月額5万円~6万円程度になると思われます。

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