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渉外関係 連載

9.渉外関係エトセトラ 売買契約(6)

「平常時の取引規定と異常時の対処規定のそれぞれにまたがる性質を持つ規定について」

前回から、売買契約について、債務の履行とは直接関係ないものの双方の契約関係の存続に影響を及ぼす事情がある場合の対処規定について見てきました。今回は、平常時の取引規定と異常時の対処規定のそれぞれにまたがる性質を持つ規定について見ることにします。

このカテゴリーには、通知、完全なる合意、権利放棄、一部無効時の契約の効力に関する規定などがあります。以下、順に見ていきます。

通知(Notice)

外国にいる相手方にどうやって通知するか、いつ通知ができたかの問題です。これは、個々の注文に始まり、契約の更新、損害賠償の請求、解除による契約終了まで係わります。特に、当事者間で紛争になった場合、通知に効力が生じたことをどうやって紛争解決の判断者である第三者(裁判官、仲裁人)に対して立証するかの問題に及びますので自分が権利者として相手に通知する場合、相手が権利者として自分が通知される場合の効果を具体的にイメージして規定する必要があります。

郵便、FAX、テレックス、Eメールなど通信方法は多々あり、また、いつ通知に効力が生じたかの問題について、一律発信をもって完了とするか(英米法的)、到達まで必要とするか(日本民法的)、それとも、通信方法毎に扱いを変えるかといった、様々なバリエーションがあります。以下では、名宛人にとって比較的有利、発信者にとって比較的不利ではありますが、確実な方法を例示します。

Any notice required or permitted under this Agreement shall be sent by registered or certified air mail, postage prepaid, international cable or facsimile or telex to the following address. Any notice required or permitted to be given concerning this Agreement shall be effective upon receipt or refusal thereof by the Party to whom it is addressed.

本契約で要求されるまたは認められる通知は、切手を貼った書留航空郵便もしくは証明付き航空郵便、国際電報もしくはファクシミリ、または、テレックスによって下記の住所宛に送られる。本契約に関して提供することが要求または認められる通知は、それが宛てられた当事者によって受け取られた時またはその受け取りを拒絶したときに効力を生ずる。

完全なる合意(Entire Agreement)

当事者間で合意された内容はすべて契約書に記載されており、契約締結以前の合意事項は書面に記載されたものであれ、口頭のものであれ、すべて無効とする条項です。契約の締結前の事前交渉で種々のメモがやり取りされたり、場合によっては、口約束があったりするでしょうが、これらの事項を後の争いまたは裁判で持ち出して、異なる契約内容が主張されることを防ぐための条項です。もともと、英米法において、契約交渉の結果を書面化して契約書を作成した場合は、それが拘束力のある文書となり、それ以前の交渉中に合意された事項で契約書の内容と矛盾する事項について効力を認めないとする原則(口頭証拠排除の原則、parol evidence rule)が背景にあります。例えば、以下のような文例があります。

This Agreement constitutes the entire and only agreement between the Parties with respect to the subject matter hereof, and supersedes, cancels and annuls all prior or contemporaneous negotiations or communications.

本契約は、本契約の主体に関する両当事者間の完全唯一の合意を構成し、本契約締結以前のすべての交渉または協議内容に優先し、これを取り消し、及び、無効とする。

完全なる合意は契約書作成時以前の合意を排除するものです。さらに、契約書作成後の口頭による契約書の変更が主張されることを排除するために、多くの場合、下記の条項が付加されます。

This Agreement may only be amended by a written agreement signed by the Parties.

本契約は、両当事者が署名した合意書なくして、修正変更することはできない。

権利放棄(Waiver)

当事者の一方が権利行使をしなかったばかりに、却ってその権利行使が制限されてしまうことを防ぐための条項があります。もともと、英米法において、契約の一方当事者にある行動(A)があり、これを前提に他方当事者が行動し、他方当事者に保護に値する利益状況が形成されたとき、Aに矛盾した行為により、他方当事者が不利益を被るような場合、一方当事者の当該権利行使を禁ずる原則(estoppel、禁反言の原則)が背景にあります。

契約に基づく権利を何らかの理由で一定期間内や期日に行使しなかった場合にも、その権利が失効することのないことを規定します。例えば、以下のような文例があります。

The failure to exercise or enforce any right conferred upon any of the Parties hereunder shall not be deemed to be a waiver of any such right, or shall not operate to bar the exercise or enforcement thereof on any other occasion.

本契約に基づき当事者の一方に与えられた権利を行使または行使しなかったことは、当該権利の放棄とはみなされず、また、他の機会における同一権利の実施または行使の妨げとはならない。

契約の一部無効時の他の部分への影響(Severability)

準拠法に照らして、契約の一部の条項が無効または執行不能になった場合でも、他の条項が影響を受けないとして、契約の効力を確保するための条項があります。

契約に書かれた各条項がそれぞれ分離し、独立の効力を持ち、仮に一部の条項が無効になったとしても、その無効が他の条項に影響を与えないことを規定します。例えば、以下のような文例があります。

In the event that any provision of this Agreement is held by a court of competent jurisdiction to be void, such void provision shall be considered as excised from this Agreement which shall otherwise remain in full force.

本契約のいかなる条項も、管轄のある裁判所によって強行法規違反などにより無効と判断された場合、当該無効な条項は本契約から除かれたものとみなし、その他は完全な効力を持ち続けるものとする。

これをもって各論のトップを切った売買契約の最終回とします。

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