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渉外関係 連載

5.渉外関係エトセトラ 売買契約(2)「紛争解決方法・裁判管轄の問題について」

前回は、売買契約の基本的要素についてご紹介しましたので、今回は、その具体的条項を検討したいと思います。検討に当たっては、第3回にお話ししました、契約を構成する前文、異常時の対処規定、平常時の取引規定の各グループに分けていきます。うち、前文については、特に補充することはありませんので、まず、異常時の対処規定について取り扱いたいと思います。

異常時の対処規定は、相手方の債務不履行またはこれに準ずる時の他方の権利及び他方が権利行使しない場合の取扱、相手方の損害賠償義務、紛争解決方法(言語、準拠法、管轄)など、契約の所期の目的が阻害されるようなときの対処方法です。

まず、イメージしやすい裁判管轄、あるいは広く紛争解決方法の問題から始めます。

裁判管轄(Jurisdiction)は、一般に当事者間で紛争が発生した時にどこの(国)の裁判所に訴えるかの問題です。これに対し、準拠法(Governing law)という概念がありますが、これは管轄とは独立した概念で、契約の解釈をどのようなルールに基づいて判断するかという問題です。大阪の会社がチェコ共和国の会社と取引をして、管轄は大阪地方裁判所、準拠法はスイス法ということも、管轄がプラハ裁判所の場合もあり得ます。

管轄は紛争が起こった場合、どこで白黒をつけるかという問題ですので、言語、制度、法律、商慣習の異なる国で戦うというのは、費用の面(契約書類の翻訳、管轄地と日本の弁護士への委任、打ち合わせの費用等)、結果の予測の面で大きな負担ないしリスクを強いられます。

ですから、相手から駆け引きのため、または、言いがかり訴訟を被らないためにも自社の本拠地に管轄が欲しいところです。いきなり、アメリカ合衆国の何州の裁判所から会社に裁判の呼び出し状が送られてくるというのも気味が悪いものです。

しかし、両当事者とも自国の管轄の取得を主張し、話が先に進まないような場合、便法として以下のような規定の仕方があります。第2番目以降は、訴えにくくし、訴訟を回避するという意図がありますが、あまりに技巧的です。

 

裁判管轄をあえて記載しない。

紛争類型ごとに裁判管轄を変える。

訴えた方が相手方の裁判所に赴く。

これにさらに組み合わせて、準拠法を訴えられる相手方の国の法律にするなどです。

 

もっとも、管轄を取ればそれで足りるというわけではありません。日本国内と同様に、勝訴判決⇒強制執行⇒権利の実現と考えるのは早計です。例えば、日本の裁判所での勝訴判決を相手方のフランスの財産に強制執行する場合、フランスで判決の承認(Recognition and Enforcement)を受けなければなりません。判決内容がフランスの公序良俗に反する場合など、その判決は承認されずこの限り無駄になります。日本が自働判決承認条約を締結している国はないので、不確実性を伴います。実は、強制執行の確実性を考えると、強制執行の目的物がある国の裁判所で判決を得るのが一番確実です。相手方が日本に財産を有しない場合、日本での管轄取得は訴訟回避に有意義でも、勝訴判決の執行については不確実だということです。

また、いきなり法廷闘争に持って行きたくないというのが日本人の発想でしょうから、訴訟に持っていく前に、Mediator(仲介者)への付託前置義務を設定することもよくあります。

さらに、裁判管轄の合意の代わりに、ADR(裁判外紛争解決手段)にすることも、広く行われております。ICC(国際商業会議所)、AAA(アメリカ仲裁協会)、JCAA(社団法人日本商事仲裁協会)、CIETAC(中国国際経済貿易仲裁委員会)などです。当事者の納得する中立な専門家への付託により、一回の仲裁で終局的に解決し、手続も柔軟です。当事者の属する国がいわゆるニューヨーク条約の加盟国であれば、仲裁判断(Award)が承認されやすいので、その執行が容易になります。

やはり、相手を訴えなくて済むよう、相手方にできるだけ信用を与えず、うまく、Leads and Lagsすること、これを基礎付ける契約の規定が肝要になります。

以上の話はBtoBを前提にしていますが、最近では、インターネットを通じて直接日本国外の消費者へ販売することも普通に行われるようになってきています。この場合、消費者保護立法により管轄の合意が排除されることがあります。例えば、EUでは、事業者が商業活動を消費者の住所国で行うか、そこに向けており、その一環として消費者との契約が成立した場合、消費者の住所地国での管轄を認めています(ブラッセルⅠ規則)。アメリカ合衆国のレベルではこのような裁判管轄の統一的規定はなく、コモンローの国であるため、各州の先例によりますが、州外の活動により当該州内において重要な効果が生じる場合で、最低限の関連があるときに管轄を認める法制(ロングアーム)があります。これらの法制によれば、買い主の住所国に管轄が認められることは十分あり得ます。ただし、訴額で訴訟に至るケースはまれでしょう。

次回は、準拠法についてお話しします。

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