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財産承継に役立つ制度

平成29年9月10日

10.配当や自己株式取得による会社財産の流出に対する財源規制

財源規制とは

株式の配当は、会社法では剰余金の配当と呼ばれます。剰余金の配当は、当期の利益及び過去の留保利益も含めた剰余金を原資として、剰余金の処分として株主総会の決議により実施されます。剰余金の分配可能額の範囲内で、事業年度中、何回でも行うことが可能です

なお、旧商法(平成17年改正前)によれば、剰余金の配当は、利益の配当として、定時株主総会における利益処分として行うものとされていました。決算の確定と利益の処分が結び付いていたので、年l回が原則で、例外的に事業年度中に1回だけ取締役会の決議により中間配当を行うことができるとされていました。

これに対し、現行法下では、何回でも剰余金の配当を行うことができるようになったのではありますが、野放図に配当し、会社債権者の利益が害されないよう、財源規制が設けられています。

会社財産が流出し株主に流入するのは、剰余金の配当だけでなく、中間配当、資本金・法定準備金の取り崩しに伴う払戻など、様々なケースがありますが、これらはひとまとめにして、各資本取引について、「当該行為がその効力を生ずる日における」、「分配可能額」を超えてはならないことになっています(会社法446条、461条)。

 

財源規制に係る規定

「分配可能額」とは、「第一号及び第二号に掲げる額の合計額から第三号から第六号までに掲げる額の合計額を減じて得た額」をいうとされ(会社法461条2項)、条文上は単なる引き算で数値が算定されるようになっていますが、実は、どうしてこんなになってしまったのかと思うくらい、複雑です。また、足し算と引き算の連続とはいえ、条文の判読はやっかいです。

そこで、いざというときに混乱しないように、全体とその計算手順を整理しておきたいと思います。

 

条文の構造は、以下の通りです。

 

会社法461条2項が、分配可能額を求める式です。同項は、分配時の剰余金の額を参照(基に計算)しているので、その計算式を規定する会社法446条1項を見ます。

次いで、その計算式の項目を見れば、461条2項については、分配時の剰余金の額から自己株式の帳簿価格等を減算するなどの加減算を行い、「分配可能額」を計算しています。446条1項については、前期の決算期における剰余金の額に決算日から分配時点までの剰余金の額の加減算を行い、分配時の剰余金の額を計算しています。

 

これを時間順に見れば、①前期の決算期における剰余金の額を計算し(会社法446条1項1号)、②それ以降分配時点までの剰余金の加減算を行い、分配時点の剰余金の額を計算し(会社法446条1項)、③その額に加減を行い、ようやく「配当可能額」が計算される(会社法461条2項)というプロセスになります。

 

まず、幹となるのが、会社法446条1項と461条2項であり、全容は、以下のような図になります。

次に、幹の部分を拡大すれば、以下のようになります。

ついで、幹から出てくる枝葉(加減算を行う上での参照先)は以下のような図になります。

概算の方法

今回、加減算の項目を網羅的に挙げましたが、よくある中小企業が普通の経営を続けていることを前提にすれば、ほとんどの項目は無関係なことがわかります。

会社の経理の方が凡そ配当可能額を計算するには、以下のようになろうかと思います。

①前期末のその他剰余金の額

− ②分配時までのその他剰余金の減(配当など)

+ ③分配時までの自己株式の処分損益

− ④前期末から分配時までの自己株式の処分対価

− ⑤分配時の自己株式の帳簿価額

+ ⑥その他有価証券評価差額金(マイナス時)

 

財源規制の適用範囲

剰余金の分配、自己株式の取得(会社法155条が取得できる場合を限定)の財源規制について、会社法461条1項が規定しています。

もっとも、単位未満株式の買取請求による、他の会社の事業の全部を譲り受ける場合にその会社が有する株式の取得、合併消滅会社からの株式の承継、吸収分割をする会社からの株式の承継、質権の実行など、債権者保護を図る必要がなく、また、手続上付随的に発生するものについては、財源規制が及んでいません。

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