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財産承継に役立つ制度

平成28年12月10日

9.事業承継支援制度

経営承継円滑化法の概要

「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下「承継法」といいます。)では、① 事業承継税制(非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度)、②遺留分に関する民法の特例、③事業承継時の金融支援措置よりなる事業承継円滑化のための制度がラインアップされています。

①について、相続税・贈与税の納税猶予の両制度ともほぼ同じ要件です(もっとも、具体的な要件には違いがあり、猶予申請を検討するうえで重要なものもあります。仔細は、下記の相続税・贈与税の猶予の要件と効果の対比をご覧ください。)。

 

また、両制度の連結により連続して適用できるようになっており、一定の要件を満たしたうえで事業が代々継続されれば、上限の株式数の範囲内であれば、本制度が続く限り、その金額にかかわらず、納税が猶予されるという魅力的な制度です。

②について、先代経営者が事業承継者に対し遺言により株式を取得させた場合において、他の共同相続人からの遺留分減殺請求権の行使の効果を微調整するための制度ができました。

③については、中小企業者に対する信用保険の拡大と代表者個人に対する融資の創設を内容とします。

もっとも、受けることのできる便益が大きいことに比例して、認定要件及び認定継続要件が厳しいので、予めの入念な検討と長期の計画が必要です。例えば、事業承継者が、中途で(5年も経過せずに)、株式を親族外の第三者に譲渡してしまうような場合など、本税に併せて利子税を支払わなければならなくなるので、却って通常納税する場合より税負担が重くなってしまうこともあります。認定後も、継続的報告を1回でも怠たれば失効します。

関連する法律の構造

一般法(原則) 特別法(修正)
民法1029条 遺留分 承継法4条1項、5条1項 除外、固定合意 経産局と家庭裁判所へ届け出
相続税法33条 納付 承継法12条1項1号 事業承継者の認定

認定事業承継者の贈与税・相続税の猶予と免除
経産局と税務署へ届け出
租税特別措置法70条の7から70条の7の4

非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予制度

(1)共通の要件

① 猶予限度

事業承継者が、一定以上の発行済議決権株式総数(以下、単に「株式」といい、「株式」の発行主体を「会社」といいます。猶予の対象となる株式を「特例非上場株式」といいます。)(*)の贈与を受け又は相続により取得した場合、その承継者の納税を猶予します。

 

② 認定要件

(2)共通の効果

納税の猶予

* 事業承継新制度の適用の対象となる会社は、株式会社に限りません(合同会社など)が、株式会社がほとんどのためこのように略称します。

 

(3)相続税・贈与税の猶予の要件と効果の対比

  共通 贈与税の猶予 相続税の猶予
要件 ①事業承継者の要件 会社の代表者であること
事業承継者と同族関係者で発行済議決権総数の50%超の株式を保有かつ同族内で筆頭株主となること(ーつの会社で適用される者は1人)
贈与の日において、20歳以上であること
贈与日まで引き続き3年以上その会社の役員であること
相続開始の5ヶ月後において会社の代表者であること。
相続開始直前において、その会社の役員であったこと(代表者の被相続人が60歳未満で死亡した場合を除く)。
②先代経営者の要件 会社の代表者であったこと
先代経営者と同族関係者で発行済議決権総数の50%超の株式を保有かつ同族内で筆頭株主であったこと。
贈与の時以後において、贈与者が代表者でないこと
受贈者が総株式数の3分の2以上を取得するまで(但し、これに足りない場合は全株式)贈与。
 
③5年間の事業継続要件 積極要件 事業承継者が会社の代表者であること。
5年平均で承継当初の雇用の8割以上を維持。
対象株式の継続保有。
事業承継者と同族関係者で発行済議決権総数の50%超の株式を保有かつ事業承継者が同族内で筆頭株主であること。
   
消極要件 資産管理会社、総収入金額が0の会社に該当しないこと。    
④5年経過後の要件 積極要件 対象株式の継続保有。    
消極要件 資産管理会社、総収入金額が0の会社に該当しないこと。    
⑤認定対象会社の要件 積極要件 中小企業基本法の中小企業であること(承継法2条)。
非上場会社であること。
相続税の納付の負担等に伴い事業活動の継続に支障が生じているとして経産大臣の認定を受けたこと(承継法12条1項) 。
   
消極要件 風俗営業会社に該当しないこと
総収入金額が0でないこと。
資産管理会社に該当しないこと
   
⑥免除要件 ③の期間中 事業承継者が死亡した場合(全部)。 生前贈与を受けた事業後継者の次の事業承継者が贈与税の納税猶予を受ける場合(P14)(一部)。
先代経営者(=贈与者)が死亡した場合(全部) 。
相続税の猶予を受けた事業承継者の次の事業承継者が贈与税の納税猶予を受ける場合(p43)(一部)。
④の期間中 事業承継者が死亡した場合(全部)。
会社が破産又は特別清算した場合(一部)。
同族関係者以外の者に株式を全部譲渡した場合(一部)。
⑦担保提供 申告書の提出期限までに納税猶予分の税額に相当する担保(対象株式も可)を提供すること。    
効果 猶予税額   贈与税の計算式による 相続税の計算式に準じ、80%相当額まで

(4)猶予額

① 贈与を受けた場合

(i) 贈与税の納税猶予を受けることのできる最大の特例非上場株式を計算

発行済完全議決権株式総数×3分の2-事業承継者が受贈前から保有していた議決権株式

(ii) 納税猶予を受けることのできる贈与税額

特例非上場株式の課税価格×贈与税率

 

② 相続した場合

(i) 相続税の納税猶予を受けることのできる最大の特例非上場株式を計算

発行済完全議決権株式総数×3分の2-事業承継者が相続前から保有していた議決権株式

 

(ii) 納税猶予を受けることのできる相続税額

相続税については、税額の計算方法が、一旦、全相続人が法定相続分で相続したと仮定して、各相続人の税額を算出したものを合計し、その後、実際の相続分に応じて税額を按分する方法になっているため、贈与税の猶予額のように単純には算定できません。

そこで、相続税法では、事業承継税制の適用対象となる相続人が特例非上場株式のみを取得したとして計算した相続税額から特例非上場株式の20%のみを取得したとして計算した相続税額を控除したものを相続税の猶予額としました。これをもって、株式の80%分の猶予とします。

  

(ア)事業承継者の本来の相続税納税額(P)を算出

具体的な相続税の計算手順は、国税庁のHP参照。

(イ) 事業承継者が特例非上場株式のみを取得したものとして計算した事業承継者の相続税額(X)を算出

上記(i)と同じ計算方法

(ウ) 事業承継者が特例非上場株式の20%相当額のみを取得したものとして計算した事業承継者の相続税額(Y)を算出

上記(i)と同じ計算方法

(エ) 事業承継者の相続税猶予額(M)を算出

M=X-Y

(オ) 事業承継者の実際納税額(T)を算出

T=P-M

遺留分による制約の解消

せっかく、同族会社オ-ナ-が、生前贈与や遺言を活用し、事業承継者に株式を取得させても、他の相続人が遺留分に基づき権利(遺留分減殺請求権)を行使すれば、相続人間で争いになり、予定した事業承継が覆されてしまいます。

従来の相続前の遺留分の放棄制度(民法1043条)では、権利を放棄する人がそれぞれ自ら単独で家庭裁判所に申立てを行い、その許可を得なければならず、承諾を得にくいものでした。

そこで、親族内の遺留分権利者の全員が合意をすることにより、相続法における法律関係を合一的に確定させる「民法特例」の制度が創設されました。

つまり、遺留分権利者全員の合意が得られれば、①遺留分算定の基礎財産から除外すること除外合意)により、同族会社オ-ナ-から事業承継者へ贈与された株式その他一定の財産について事業承継者の財産を留保すること、②①の合意ができなかった場合でも、遺留分の算定に際して生前贈与時点での評価額に固定すること固定合意)により、株式価値が事業承継者の貢献により上昇した分について事業承継者の貢献分を留保することができるようになりました。

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