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財産承継に役立つ制度

平成28年10月9日

6.適格組織再編成税制

企業は、国内のみでなく、国際市場においても、厳しい競争にさらされ、収益性を上げるために、企業グループ内において、会社を合併したり、分割したりするなどして、組織を再編成することがあります。また、同族企業においては、競争上の理由だけではなく、事業承継や相続対策の一環として、会社を分割するなどして、組織を再編成することがあります。

会社が組織再編成を行った場合、例えば、製造部門と販売部門からなるA会社が販売部門を会社分割により新設会社Bに移転した場合で、B会社がA会社に対して、その対価として株式等の対価を交付し、ついで、A会社がこの株式を同社の株主に対して、交付した場合を例に説明します。この場合、原則として、大きく分けて、3つの次元でこの経済行為に対して課税がなされます。

 
A会社がB会社に対して、資産を移転したことが資産の譲渡となり、譲渡損益がその事業年度の損益に計上される(資産の譲渡損益課税の問題)(法人税法62条1項)。
B会社がA会社に対して、交付した株式等の対価のうち、A会社の資本金等(ⅰ)に対応する部分が、A会社株式の譲渡対価であり、これとA会社株式の取得原価との差額が、A会社の株主の事業年度の損益に計上される(株式の譲渡損益課税の問題)(法人税法61条の2第4項、法人税法61条の2第4項、法令119条の8、所得税法33条、租税特別措置法37条の10、租税特別措置法37条の11)
B会社がA会社に対して、交付した株式等の対価のうち、A会社の資本金等に対応する部分以外の部分(利益積立金(ⅱ)に対応する部分)は、みなし配当として、A会社の株主の事業年度の損益に計上される(ⅲ)配当所得課税の問題)(法人税法24条、法人税法施行令23条、所得税法25条、所得税法施行令61条)。

しかし、組織再編成が、同一グループ内での組織再編成に過ぎない場合、つまり、A社の株主が、組織再編成後も、交付を受けたB社株式を保有する場合、組織再編成の前後を通じて、同じ人が経営しているという状況には変化がありません。

にもかかわらず、A会社にあっては、含み益があり純資産の価額が簿価額より時価額の方が大きくなる場合などには、経済的負担が生じ、A会社の円滑な経済活動が阻害されてしまいます。また、A社の株主にあっても、株式の値上がりがあり株式譲渡益が課税されたり、みなし配当課税がなされたりする場合には、A会社の株主に経済的負担が生じ、前者と相まって、A会社の株主の投資活動が阻害されてしまいます。

 

そこで、組織再編成の前後で経済的な実態に変更がない場合には、組織再編成に係る法人および株主に対する課税関係について、株主の投資が継続していることを条件に、課税を繰延べることにしました。これが「適格組織再編成」税制と呼ばれるものです。

 

○ 合併・分割・現物出資・現物分配・株式交換・株式移転の際の法人課税

合併法人等の株式のみを交付(合併、分割及び株式交換については、合併法人、分割承継法人または株式交換完全親法人の100%親法人の株式のみの交付を含む)する場合、課税を繰延べ。

 

〇 株主の課税の取扱い

株主が、合併法人等の株式のみを交付(合併、分割及び株式交換については、合併法人、分割承継法人または株式交換完全親法人の100%親法人の株式のみの交付を含む)を受け、かつ、投資が継続している場合、旧株の譲渡損益課税を繰延べ。

 

そして、

合併の場合には、吸収会社が、被吸収会社の繰越欠損金(含み損)を引き継げることとしました。

 

この法人と株主の「継続性」を個別に落とし込んだものが以下の「適格要件」です。

企業グループ内の組織再編成の適格要件 共同事業を営むための組織再編成の適格要件
100%の支配関係の法人間で行う組織再編成 100%支配関係の継続
事業の関連性があること
(イ) 事業規模(売上、従業員、資本金等)が概ね5倍以内
または
(ロ) 特定役員への就任(株式交換・株式移転の場合は完全子法人の特定役員の継続)
左の② ~④
移転対価である株式の継続保有(株主)
完全親子関係の継続(株式交換・株式移転のみ)
50%超の支配関係の法人間で行う組織再編成
50%超支配関係の継続
主要な資産・負債の移転
移転事業従業者の概ね80%が移転先事業に従事(株式交換・株式移転の場合は完全子法人の従業者の継続従事)
移転事業の継続(株式交換・株式移転の場合は完全子法人の事業の継続)
 

もっとも、例えば、合併の場合に、合併する方とされる方のいずれか一方の欠損金(含み損を含む。)と他方の利益または含み益を通算することにより、会社の租税回避の手段として本制度が利用されることを防ぐために、一定の歯止めがかけられています。

   

中小企業において、事業承継の準備あるいは事業承継を行う際には、予めどのようにすれば適格要件を満たすかを十分に精査したうえで、ことに望みたいものです。不用意な組織再編成を行ってしまうことで、大きな税負担のリスクが増大し、その後の経営に重大な影響を及ぼします。

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