トップページ  >  連載  >  財産承継に役立つ制度3

財産承継に役立つ制度

平成28年6月21日

3.遺言

遺言書には、通常の方式に従ったものと、通常の方式には従えない緊急時に作成するための特別の方式に従ったものの二種類があります。ただ、緊急時を想定した特別の方式の遺言書は一般的でなく、ほとんど用いられないので、ここでは説明を省きます。

通常の方式の遺言書としては、民法に、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の三種類の方式が認められています。

「秘密証書遺言」は、遺言者以外内容を知ることのない遺言ですが、実際にはほとんど使われていません。さしたるメリットがないからでしょう。

以下では、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の特徴を比較してみましょう。

  自筆証書遺言 公正証書遺言
自筆の要否 必要 不要
証人の要否 不要 必要(2名)
公証人の関与 不要 必要
保管方法 本人、推定相続人、遺言執行者等 原本は公証役場
検認手続 必要 不要
費用 ほとんどかからない。 遺言する財産の価額によって、数千円~数万円の公証人手数料が必要。
 
自筆証書遺言のメリット・デメリット

「自筆証書遺言」では、全文を自署し、日付を入れて署名・押印すれば良く、証人も要りませんし公証人も関与しませんから最も簡便かつ安価な方法と言えます。普通の人が「遺言書を書く」という場合、まず思いつくのはこの「自筆証書遺言」でしょう。

ただ、作成が簡単な分、方式が厳格です。例えば日付を書き忘れただけで無効になります。また、日付を書いても「3月吉日」などという、具体的な日付を特定できない曖昧な記載ではやはり無効になってしまいます。また、加除、訂正を加える場合は、「遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない」と定められています(民法968条2項)。要するに、自筆証書遺言を作成するというのであれば、まずは弁護士等の専門家にきちんとした自筆証書遺言の方式を聞き、記載漏れや間違いのないように作成する必要があります。

 

もっとも、方式の問題だけなら、注意すれば良いとも言えるのですが、証人等が不要であるということの裏返しとして、作成を確認する第三者がおらず、従って、「偽造である」とか、「遺言能力がなかった」といった争われ方が生じるのも自筆証書遺言の特徴といえます。「そんなことが争われるのか」と思われる方もおられるでしょうが、こういう争われ方が生じるのは多くの場合、「内容が気に入らない」人がいる場合です。そういう人にしてみれば、黙っていたら(方式に問題がない場合)その内容で決まってしまうわけですから、「駄目で元々。言うだけ言ってみよう。」という気になる方もおられるわけです。

 
おすすめは、「公正証書遺言」

そういう点も考慮して、弁護士は概ね遺言の方式としては「公正証書遺言」をお勧めしています。

「公正証書遺言」では、遺言書の文章は、専門家である公証人が作成してくれますので、偽造の疑いはまず生じませんし、遺言能力の問題も、公証人や証人が立ち会っていますので、争われにくいと言えます。

また、公正証書遺言の利点として、「原本を公証役場が預かってくれている」ということが挙げられます。遺言者は「正本」を受領しますが、この正本を失った場合にも「謄本」を発行して貰えます。自筆証書遺言を作成した場合、原本一通しかありませんので、その管理をどうするかが問題になります。原本管理を心配しなくても良いという意味で、実際上、この利点は大きいです。更に、仮に遺言者が公正証書遺言を紛失してしまい、そのことに気付かないまま亡くなったとしても、相続人から、公正証書遺言が作成されたのか否かについて、公証人役場に確認できる、という点もメリットです。ただ、この場合は、公正証書遺言が作成されたはずだということに相続人が思い至らないと問い合わせる動機付けがありませんので、遺言者が公正証書遺言を作成したときは、そのことを相続人全員に告知しておく必要があります。「全員に」というのは、一人だけに伝えておくと、その相続人が、遺言書は自分に不利な内容になっていると感じた場合に、敢えて問い合わせない可能性もあるからです。

遺言作成に関し、公証人に要する費用は、遺産の額により異なり、例えば遺産500万円までで1万1000円、5000万円までで2万9000円、1億円までで4万3000円ほどが必要になります。それ以上の遺産をお持ちであれば、大雑把に言えば、3億円で10万円、10億円で25万円程度、というところです。

 
遺言作成にあたって気をつけて欲しいこと

公証人は遺言者のいうことを公正証書にすることが役目なので、遺言内容そのものにはタッチしません。公証人は、遺言の内容面を含め、後日相続人間で問題が生じる可能性の有無も検討して遺言書を作成してくれるわけではないのです。しかし、遺言を巡る紛争というのは、そういったことを考慮せずに現在の想いだけで遺言書を作成してしまったために生じるということも結構あるのです。従って、遺言書の内容面に関しては、事前に弁護士等の専門家と綿密に打ち合わせるべきです。弁護士は遺言書作成の相談を受けた場合、もちろん遺言者の意思の尊重が第一ではありますが、可能な限り推定相続人の方々とも話し合い、将来紛争にならないような内容の遺言書案を作成します。もちろん、どうしても相続人の一部の人には不満の残る遺言書になってしまう場合もありますが、そういった場合には、紛争が生じても長期化しないように工夫します。その上で、方式の点では公正証書遺言にすることをお勧めしています。この場合、公証人との連絡は弁護士が行ないますし、弁護士が「遺言書案」を作成しますので、遺言者から公証人に内容を逐一説明して頂く必要もありません。証人になってくれる知人にも内容は知られたくないということであれば、弁護士が秘密を守ってくれる人を手配します。その際の弁護士費用は、「定型的な遺言書」なら20万円程度といったところですが、内容が複雑であるなど、かなりの調査を要する遺言の場合はプラスアルファが生じます。

このように、遺言の作成を弁護士に依頼しますと、多くの場合、公証人と弁護士費用で、何十万円かは必要になりますが、要は「費用対効果」だと思います。遺言書を遺したために相続人が揉めてしまうといったことは、遺言者の望むところではないはずです。遺言書を遺す以上は、若干の費用を掛けてでも、確実かつ最良の遺言書を遺すべきです。

   
遺言で節税を考える

また、遺言は相続税の節税を考える上でも有効です。

例えば、配偶者には配偶者控除が認められており、1億6000万円又は法定相続分相当額のいずれか多い額まで相続税がかかりません。

この配偶者控除を利用すれば、少なくともこの時点では相続税額を圧縮できますので、目一杯この特典をお使いになる例が多いようです。

しかし、次にその配偶者が死亡した場合(二次相続)、通常は子に財産が相続されますが、ここでは配偶者控除は使えません。そのため、あまりにも多額の財産を一次相続で配偶者が相続すると、結果的に一次相続と二次相続で、支払う相続税額の合計額が多額になってしまうこともあります。相続税は累進税率になっているので、一次相続で若干子供の相続分を増やして、その分相続税を支払ったとしても、二次相続で相続する分について税率が低くなれば、トータルでは支払う相続税額が減ることもあるのです。

勿論生存配偶者の今後の生活のことが第一ですが、到底生存配偶者が使い切れないほどの(あるいは利用しない)財産があり、最終的には子供たちに全部が相続されることに問題がないのであれば、このあたりをうまく調整して、遺言で財産を分配すれば、遺言は節税対策としても利用することができます。

top