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財産承継に役立つ制度

平成28年3月9日

2.成年後見制度

後見には、「任意後見」と「法定後見」の2つの制度があります。いずれも、本人の判断能力が衰えた場合に、後見人が本人のために財産管理や身上監護の事務を開始するものです。

任意後見では、本人が、自身の判断能力が衰えた場合に備えて、そのような場合には自分の財産を適切に管理・処分して欲しいと、信頼できる人に事前に依頼し、その旨の契約を締結しておきます。そして、本人がそのような事態になった場合に、その人が任意後見人としての事務を開始します。

 

例えば、将来認知症と診断された場合には、グループホームや特別養護老人ホームの入居契約をして欲しい、その場合は、不動産を賃貸して賃料収入を自分の生活費にしたい等の要望を契約で決めておくことができます。

 

一方、そのような事前の契約をせずに、開始する後見制度が法定後見です。

法定後見には、本人がどの程度判断能力を失っているかによって、「後見」「保佐」「補助」の3つの制度に分けられます。本人が判断能力を常に欠いている場合が「後見」、判断能力が不十分な場合は「補助」です。その中間の「保佐」は、本人の判断能力が著しく不十分な場合に利用される制度です。どの制度を利用するかにより、本人ができる行為の範囲と、法定後見人の権限の範囲が異なってきます。

 

後見と信託の制度の根本的な違いは、後見人には、本人の身上監護についても行う権限があるという点です。身上監護とは、被後見人が安心して暮らしていけるよう、施設や病院の利用についての契約を締結したり、介護保険に関する手続きを行ったりすることを言います。実際に介護を行うわけではありません。信託は、財産の管理・処分を委ねるだけですので、受託者が委託者の身上監護を行うことはありません。

 
任意後見の手続き

任意後見契約を締結するには公正証書を作成する必要があります(任意後見契約に関する法律3条)。任意後見は、財産の管理を人に任せるものですから、公証人が本人の意思をきちんと確認し、契約内容が法律に違反しないかどうかを調査する必要があるからです。そして、公証人の嘱託により、契約内容が登記されます。

後見事務の開始には、裁判所が関与します。本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人になることを引き受けた人や親族らが、本人の同意を得て、家庭裁判所に対して任意後見監督人の選任の申立を行います。本人が自分自身で申し立てることも可能です。裁判所が任意後見人を監督する任意後見監督人を選任し、その監督の下、任意後見人による後見事務が開始されます。任意後見監督人は、任意後見人が適正に業務を行っているかを定期的にチェックしてくれます(任意後見契約に関する法律4条)。

 
法定後見の手続き

法定後見は、本人が判断能力を欠く常況になった場合に、本人や親族らが家庭裁判所に対し、後見(又は保佐、補助)開始の審判を申立てます。家庭裁判所は、後見人(又は保佐人、補助人)を選任し、後見人が事務を開始します。

法定後見の場合は、後見監督人が必ず選任されるわけではありません。

 
信託と後見の違い

(1)適用場面

民事信託は、判断能力に不安が見られない場合であっても、例えば、身体的に財産管理が苦になったり、あるいは、細かい事務を行うのが面倒なので誰かに任せたいという場合にも、利用することができます。

後見は、判断能力が低下していると裁判所が判断した場合でなければ利用できません。

 

(2)身上監護権の有無

民事信託で、受託者が委託されるのは、あくまでも財産の管理・処分のみです。

一方、後見人は財産管理及び身上監護の権限を有します。民事信託と比べて、本人とより密接な関係を有することになります。

 

(3)財産管理権の行使の範囲

民事信託では、所有権が委託者から受託者に移転されることになります。そして、その信託財産について、信託目的の範囲内であれば、受益者のために比較的自由に信託財産の運用や処分を行うことが可能です。

後見では、財産権は本人に留保されます。受託は、基本的に財産を維持しつつ、必要な支出は認められますが、本人にメリットのない換価行為や財産減少行為は行うことができません。

また、民事信託では、信託財産が委託者の固有財産から隔離されるため、詐欺等の取引による被害も最小限に抑えられると言ってよいでしょう。

後見の場合、法定後見であれば、後見人、保佐人、補助人が取消権を行使できる場合があります。しかし、判断能力が低下した後、裁判所によって後見開始の審判がなされるまでの間に、本人が取引行為をした場合はどうなるでしょう。認知症の発症や症状の進行は気づきにくいものですし、申立ての準備を始めてから審判が下りるまでは相当日数がかかります。この間の取引を取り消すためには、本人に判断能力がなかったということを、取消を主張する者が立証しなければなりません。これはそんなに簡単なことではありません。

また、任意後見の場合、任意後見人は法定後見人のように取消権を有していないため、後見事務を開始していたとしても、取り消せないのです。

 

(4)監督人の設定

民事信託の場合、受託者を監督する信託監督人を置くように設定することができます(信託法131条)。信託監督人には専門資格者である弁護士等などの社会的責任のある第三者が適任となります。

任意後見の場合は、必ず任意後見監督人が置かれることになります(任意後見法4条1項)。任意後見監督人には、弁護士や司法書士など専門資格者である第三者が選任されることが通常です。

成年後見の場合は、後見監督人を置くかどうかは任意的です。必要があると認められるときに、本人・親族等の請求により家庭裁判所が選任することになっています(民法849条)。

 

(5)本人死亡後の事務手続き

民事信託では、本人が死亡しても、信託契約が終了しない設定にすることが可能です。受託者は、受益者のために、引き続き事務を行うことができます。預金口座も凍結されません。

後見は、本人が死亡すれば終了します。後見人といえども、本人死亡後に、本人の財産を処分することはできません。本人の財産は、相続財産として、相続人に引き継ぐことになります。

  信託制度(受託者) 後見制度(後見人)
適用場面 本人の判断能力が低下しない場合でも利用できる。 本人の判断能力が低下した場合にしか利用できない。
権限 信託財産の管理・処分 財産管理、法律行為の代理、身上監護など
財産の積極的運用 信託目的の範囲内で自由な処分・運用が可能 基本的に財産を維持しつつ本人のために必要な支出のみ可能であり、本人にメリットのない財産の換価や財産を減少させる行為(生前贈与など)はできない。
不動産の処分 登記簿上の所有者として、自由に処分できる。 法定後見の場合、居住用財産の処分は家庭裁判所の許可が必要。
任意後見の場合でも合理的理由のない処分は事後的に問題となり得る。
悪質業者等の対応 財産が分離されているので、被害が最小限に抑えられる。 法定後見人は契約の取消が可能。
任意後見人は取消ができない。
死亡後の手続 信託契約により死亡後も信託が終了しない設定が可能。 本人の死亡により後見事務が終了する。
監督 信託監督人を任意に設定することが可能。 家庭裁判所または監督人による監督が必ず行われる。
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