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財産承継に役立つ制度

令和元年10月6日

2.成年後見制度

概要

成年後見制度には、「任意後見」(任意後見契約法に規定)と「法定後見」(民法に規定)の2つの制度があります。いずれも、本人の判断能力が衰えた場合に、後見人が本人のために財産管理や身上監護の事務を開始するものです。

「任意後見」では、本人が、自身の判断能力が衰えた場合に備えて、かかる場合に自分の財産を適切に管理・処分して欲しいと、信頼できる人に事前に依頼し、その旨の契約を締結しておきます。そして、本人がそのような事態になったときに、任意後見監督人の選任を申立て、選任されるとその人が任意後見人としての事務を開始します。例えば、将来認知症と診断された場合には、グループホームや特別養護老人ホームの入居契約をして欲しい、そのときは、不動産を賃貸して賃料収入を自分の生活費にしたい等の要望を契約で決めておくことができます。すなわち、任意後見の職務内容は、任意後見契約によりその範囲が画されることになります。

一方、「法定後見」とは、そのような事前の契約をせずに、開始する後見制度です。「法定後見」には、本人がどの程度判断能力を失っているかによって、「後見」、「保佐」、「補助」の3つの制度に分けられます(民法7条、同11条、同15条)。本人が判断能力を常に欠いている場合が「後見」、判断能力が不十分な場合は「補助」です。その中間の「保佐」は、本人の判断能力が著しく不十分な場合に利用される制度です。法定後見の種類によって、本人ができる行為の範囲と、法定後見人の権限の範囲が異なってきます(民法9条、同13条、同17条等)。

 

手続

(1)任意後見の手続

任意後見契約を締結するには公正証書を作成する必要があります(任意後見契約法3条)。任意後見は、財産の管理を人に任せるため、公証人が本人の意思をきちんと確認し、契約内容が法律に違反しないかどうかを調査する必要があるからです。そして、公証人の嘱託により、契約内容が登記されます(後見登記法5条)。

後見事務の開始は裁判所が関与します。本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人になることを引き受けた者や親族らが、本人の同意を得て、家庭裁判所に対して任意後見監督人の選任の申立を行います(任意後見契約法4条)。本人が自分自身で申し立てることも可能です。裁判所が任意後見人を監督する任意後見監督人を選任し、その監督の下、任意後見人による後見事務が開始されます。任意後見監督人は、任意後見人が適正に業務を行っているかを定期的にチェックします(同法7条)。

(2)法定後見の手続

法定後見は、本人が判断能力を欠く常況になった場合に、本人や親族らが家庭裁判所に対し、後見(又は保佐、補助)開始の審判を申し立てます(民法7条、同11条、同15条)。家庭裁判所は、後見人(又は保佐人、補助人)を選任し、後見人が事務を開始します。法定後見の場合は、後見監督人が必ず選任されるわけではありません(民法849条)。

後見と信託の違い

後見と信託の制度の根本的な違いは、後見人には、本人の身上監護(生活、療養看護に関する事務)についても行う権限があるという点です。もっとも、身上監護は、実際の介護行為を指すわけではありません。被後見人が安心して暮らしていけるよう、施設や病院の利用についての契約を締結したり、介護保険に関する手続を行ったりすることを意味します。そもそも、後見事務は、契約を中心とする法律行為に限定されています。例えば、療養看護とはその労働自体ではなく、成年後見人に介護等の労働を法律上義務づけることは親子間の扶養義務と比較しても過重であるということから療養看護に関する法律行為とされているほか、在宅ヘルパーの派遣等福祉サービスの購入、施設への入所に係る事務等が挙げられています。

これに対し、信託は、財産の管理・処分を委ねるだけですので、受託者が委託者の身上監護を行うことはありません。

下表に後見と信託の具体的な違いをまとめておきます。

 

表 後見と信託の違い

  後見制度(後見人) 信託制度(受託者)
適用場面 本人の判断能力が低下していると裁判所が判断した場合でないと利用できない(民法7、11、15条、任意後見契約法2条1号)。 本人の判断能力が低下しない場合(例えば、身体的に財産管理が苦になり、あるいは、細かい事務を行うのが面倒であり誰かに任せたいという場合)でも利用できる。
権限 財産管理だけでなく身上監護まで及ぶ(民法858条、任意後見契約法2条1号)。 信託財産の管理・処分等(信託法26条等)。
財産の積極的運用 財産の所有権は本人に留保されるため、基本的に財産の維持を前提に本人のために必要な支出のみ可能。本人にメリットのない財産の換価や財産を減少させる行為(生前贈与等)はできない(民法858条、任意後見契約法6条)。 信託財産の所有権が委託者から受託者に移転されるため、信託目的の範囲内で受益者のために比較的自由に管理・処分・運用が可能(信託法26条等)。
不動産の処分 法定後見の場合、居住用財産の処分は家庭裁判所の許可が必要(民法859条の3、876条の5第2項、876条の10第1項)。
任意後見の場合でも合理的理由のない処分は事後的に問題となり得る。
登記簿上の所有者として(不登法97条)、信託目的の範囲内で受益者のために比較的自由に処分が可能(信託法26条等)。
悪質業者等の対応 後見人、保佐人、補助人が取消権を行使し契約の取消が可能(民法9条、13条4項、17条4項)。なお、後見人等就任の前に行われた契約の場合、契約当時に本人に判断能力がなかったことの立証は困難なことが多い。
任意後見人は取消ができない。
信託財産が委託者の固有財産から隔離されるため、詐欺等の取引による被害が最小限に抑えられる。なお、信託前に委託者が行った契約については権限がない。
本人の死亡後の手続 本人の死亡により後見事務が終了するため、死亡後に本人の財産を処分することができず、相続財産として相続人に引き継ぐことになる(民法873条の2、654条)。 委託者の死亡が信託の終了原因になっておらず(信託法163条)、受託者は受益者のために継続して事務を行うことができる。預金口座も凍結されない。
監督 家庭裁判所又は後見監督人(任意後見の場合は必ず選任される(任意後見契約法4条1項))による監督が行われる(民法863条、876条の5第2項、876条の10第1項)。 受託者を監督する信託監督人を任意に設定することが可能(信託法131条)。
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