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財産承継に役立つ制度

平成28年2月5日

1.民事信託制度

自分で築いた財産は、自分で自由に使うことができます。しかし、人は誰しも年齢を重ねるもの。高齢になり判断能力が衰えたり、細やかな財産管理を自ら行うのが億劫だと感じたりすることもあるでしょう。そんな場合は、信頼できるどなたかに財産の管理を委ねるという状況が生じます。

そうであっても、せっかく築いた財産ですから、できるだけ自分が希望していた通りに使って欲しいですよね。仮にあなたがご自身で財産を管理できないという状況になったとしても、事前にしっかり準備しておくことで、あなたの希望を叶えることができる方法があります。

 

今回は、そのような方法の1つとして、民事信託制度についてご紹介します。

 
民事信託とは

あなたが、老後、安定した生活をしていくために、「不動産を賃貸してその賃料収入で暮らしていきたい。でも、自らが賃貸人なるのは煩わしい。」と考えていたとしましょう。

そんなときに、この民事信託の制度が利用できます。

例えば、あなたが、お子さんに、不動産を譲渡します。そして、お子さんが賃貸人となって不動産をどなたかに賃貸し、あなたは、その賃料収入を得て暮らしていく、という信託契約を締結するのです。

「信託」とは、委託者が、一定の信託目的のもとに、受託者に対して、信託財産を譲渡し、信託財産の管理・処分を行ってもらう制度です。 委託者が、自分が築いてきた財産の管理を委ねてよいと思える人・会社を受託者とするもので、委託者・受託者間の強固な信頼関係が大前提となる仕組みです。

信託には、次の6つの重要な要素があります。上の例であてはめると次のようになります。

①委託者・・・あなた

②受益者・・・あなた

③信託目的・・・老後の安定した生活

④受託者・・・子ども

⑤信託行為・・・信託契約の締結

⑥信託財産・・・不動産

 
「民事信託」という用語

近年、信託が注目されてきたこともあり、「個人信託」「家族信託」「福祉型信託」等、様々な信託用語が使われています。これが信託制度への理解を困難にしているようにも思えます。ここでは、大きく、「民事信託」と「商事信託」の違いだけおさえて頂ければよいと思います。

「民事信託」というのは法律用語ではありません。法律にも明確な定義は記載されていません。これに対応する概念は「商事信託」「営業信託」と呼ばれるもので、信託を営業行為として行う場合を「商事信託」「営業信託」、そうでない場合を「民事信託」と言います。

「民事信託」は信託法という法律により、「商事信託」「営業信託」は信託業法という法律により、規定されています。

信託を営業として行うには、内閣総理大臣の免許が必要となっています(信託業法3条)(金融機関は、内閣総理大臣の認可があれば、信託業を営むことができます(兼営法1条)。

これに対し、民事信託の場合、この法律を守らなければなりませんが、届け出や許可申請など行政手続は不要です。

 
受託者の義務

受託者は、委託者から財産の移転を受けます。不動産であれば、登記名義が変更されますし、預貯金であれば受託者の名義で管理されます。

自由に処分してよいわけではありません。登記には、信託目的である旨が明示されます。受託者には、信託目的に従った利用が求められており、信託法上、厳重な注意義務が課されています。例えば、以下のような義務があります。

 

(1)善管注意義務・忠実義務

受託者は、信託の本旨に従い、善良な管理者としての注意義務にしたがって、忠実に信託事務を処理しなければなりません。

(2)分別管理義務

信託財産を、受託者の固有の財産と一緒に管理すると区別がつかなくなりますから、分別して管理する必要があります。

(3)利益相反行為の制限

信託財産について、第三者と取引を行うときに、第三者の代理人を務めることはできません。

(4)信託事務処理状況の報告義務

委託者や受益者から、信託事務の処理状況等について報告を求められたときは、報告しなければなりません。

(5)帳簿等の作成、報告、保存義務

毎年1回、一定の時期に、貸借対照表や損益計算書等を作成し、受益者に報告しなければなりません。また、作成した帳簿等は、一定期間保存する必要があります。

 
民事信託の種類

信託制度は、自由に設計ができます。まさに、委託者の数だけ、信託のパターンがあると言ってもよいでしょう。 典型的な信託の設計の仕方は、次のようなものです。

信託における最も原則的な形態は、他益信託です。つまり、「委託者」「受託者」「受益者」の三者が別人格で、受託者は委託者から信託財産の管理・処分の委託を受け、受託者は、受益者のために信託財産を管理・処分します。

一方、実際に最も多く利用されている信託は、自益信託です。自益信託は、「委託者=受益者」の信託です。冒頭で挙げた事例のように、自分の老後のために信託を考えるという仕組みが多いのです(当初は自分のために、自分の死亡後は、子どものために、というような設計も可能です。後で見ていきましょう)。

 
信託の機能

信託利用にどのようなメリットがあるか、信託を利用しない場合や、他の制度を利用した場合と比較しながら、代表的な機能を挙げてみます。

(1)意思凍結機能

信託は、委託者の意思を長期間継続して有効にする契約です。委託者が判断能力を喪失したり、死亡した場合であっても、契約で定めている限り、委託者の意思は継続しているものとして取り扱われます。

通常の委任契約の場合、委任者の死亡は、契約の終了原因ですから(民法653条1号)、その時点で契約は終了し、委任者の意思は実現されなくなります。

(2)受益者連続機能

また、遺言を用いる場合、「自分の生存中は自分が、自分が死んだら、Aが、Aが死んだらBが受益者となる。」というような受益者連続型の信託は実現できません。遺言でできるのは、Aに財産を継がせる部分までです。その後Bに引き継がせるには、Aにそのような遺言を書いてもらう必要がありますが、Aにそれを強制することはできません。信託では、このように受益者を連続で指定することが可能です。

(3)財産管理機能

信託は、委託者の財産を受託者に一括管理してもらうというものです。複数の委託者が同一の受託者に一括して財産を託すことで、財産の有効活用が可能です。

(4)倒産隔離機能

委託者が受託者に財産を委託すると、その信託財産は受託者名義となり、委託者の固有財産から離れます。ですから、委託者の債権者が強制執行をしたとしても、信託財産から回収することはできません。また、信託財産は受託者名義になりますが、受託者も信託目的にしたがった管理・処分しかできないという制限がありますので、受託者の固有財産からも隔離されます。したがって、受託者の債権者による強制執行からも逃れることができます。

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