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社会保険労務判例フォローアップ

平成27年1月5日

11.派遣元はどこまで責任を負うか

昨今、セクハラやパワハラ、マタハラなどが社会問題となっていますが、今回は派遣労働者が派遣先でセクハラ被害に遭い、派遣契約を中途解除された場合に、「派遣元」の責任が認められた判決をご紹介します。セクハラの加害者あるいは派遣先に対する責任を問うことは通例ですが、本判決は派遣元に対して損害賠償責任を認めたものであり、派遣元がとるべき対応を検討する上で注目すべき判決です。

事案の概要

平成16年3月31日、Xは、派遣元事業主Y社と派遣労働契約を締結し、Y社が労働者派遣契約を締結する派遣先A会社(Y社のグループ関連会社)で就労していた。
 
なお、Y社には派遣元責任者としてCが、A社には派遣先責任者としてDが選任された。
また、Y社・A社を含むグループ関連各社には、各事業場・工場ごとに、各事業場長・工場長等を構成員とする人権推進委員会を設置している。
A社に勤務していたBが、平成16年夏頃から、Xに対してなれなれしい態度をとるようになり、平成17年6月頃には、
ⅰ)
Xのプライベートな事柄について度々質問をする
ⅱ)
トイレ、更衣室の前、自販機の前などでXを待ち伏せて、つきまとう
ⅲ)
Xに通勤時間、出社時刻、退社時刻についてしつこく質問したり、出勤簿を見せろなどと言ったり、最寄り駅からの通退勤に同行しようとする
ⅳ)
Xに一緒に帰ろう、飲みに行こう、などと言う
ⅴ)
勤務時間中にXの側に寄っていって身体をすり寄せる
ⅵ)
会議室でXの隣の席に座ろうとする
といった言動をとるようになった。
平成17年8月18日、Xは、人権推進委員会に対し、Bからセクハラ被害を受けている旨の投書をし、Cに対し報告をしたが、Cは何ら反応をしなかった。
人権推進委員会の担当者は、Xの席をBの席から離したり、Bへの指導等を行うなどした。
平成17年10月、A社は、BをXから遠ざけるため、期限付きで子会社にBを応援に出すことにしたが、業務態度が芳しくなかった等の理由により、再びA社がBを引き取らざるを得なくなった。
平成18年2月3日、DはXに対し、Xが担当している業務がなくなること、Bが帰ってくること、業績が悪いことを理由として、同年3月末でXに係る派遣契約を中途解除すると告げた。
Cは、Xからの報告を受け、Dに対し説明を求め、中途解除と、それをDが直接Xに告げたことに抗議をした。Dは、Xの派遣就労終了はA社全体の業績が良くないため、全体のバランスを考慮した結果であると説明した。Cは、A社の人事の問題でありY社として口出しできないので、中途解除もやむを得ないと判断した。
Y社は、Xに対し、次の就労先として別のグループ会社を紹介し、Xはそこでの派遣就労を開始するに至った。

本件は、Xが、Y社に対して、派遣元事業主として派遣労働者に対する職場環境配慮義務違反があったと主張して、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、慰謝料等を請求した、という事案です。

 

争点

X社(派遣元)に何らかの義務違反が認められ、債務不履行責任または不法行為責任を負うか否か

本判決の判断

本判決は、一審と異なり、以下のとおりX社の責任を認めました。

派遣元事業主は、派遣先が派遣就業に関する法令を遵守するように、その他派遣就業が適正に行われるように、必要な措置を講ずる等適切な配慮をすべき義務を負う。そして、派遣先であるA社は、労働者派遣契約に基づき派遣就業をするものに対し、直接の雇用関係にある従業員と同様に、労務の提供に関して良好な職場環境の維持確保に配慮すべき義務(職場環境配慮義務)を負っており、セクハラに関してもその予防は発生したときに適切な対処をすべき義務があるから、派遣元事業主であるY社は、A社(派遣先)がその義務を遵守して適正な派遣就業が行われるよう、派遣先との連絡体制の確立、関係法令の関係者への周知等の適切な配慮をすべき義務がある。

その上で、派遣元事業主には、派遣労働者がセクハラ被害を受けたと申告した場合、派遣元事業主としての立場で事実関係を迅速かつ正確に調査し、派遣先に働きかけるなどして被害回復、再発防止のため、誠実かつ適正に対処する義務があるとした。

本件において、Y社のCは、Xからセクハラ被害を受けている旨知らされたにも関わらず、何らの対応もしなかったし、人権推進委員会の対応にもCは積極的に関与しなかったことから、Y社にはセクハラ救済義務違反が認められる。

また、Y社は、派遣元事業主として、セクハラ被害を受けた派遣労働者が、解雇されたり退職を余儀なくされたりすることのないよう配慮すべき義務を負うにも関わらず、本件では、Cは一度Dに対して抗議しただけで、中途解除をやむを得ないことと容認し、それ以上の対応をとらなかったのであるから、その義務を履行したとは到底言えない(解雇回避義務違反)。

Y社には上記義務違反が認められるので、Xが被った精神的苦痛に対する慰謝料50万円を支払わなければならない。

コメント

本件において、Y社は、派遣先への抗議もきちんと行っていますし、Xに新たな就業先を紹介するとともに、実はそれにより生じた時給差額分の填補も行うなどのフォローも行っています。派遣先を変更するなどして一定の解雇回避に向けた対応をしているにもかかわらず、解雇に繋がりかねないような対応をとったことを捉えて解雇回避義務違反を認定することには疑問が残りますし、そもそも解雇回避義務の発生根拠自体明確ではありません。派遣元がどういう行動をとれば義務違反を問われないのか予測可能性が乏しいという意味でも、少し派遣元に厳しすぎる判決だと思います。

とはいえ、本件では、派遣元にセクハラ救済義務違反と解雇回避義務違反の双方が認められているので、派遣元としては参考にして対策を考えておくべき判決です。

本件でY社は、就業規則に派遣労働者がセクハラ被害を受けたと感じた時等には派遣元責任者に相談をすべきことを定め、就業規則を読みやすい文字で記載したサポートガイドブックも作成し配布していた上、苦情処理の申出先が明示されている派遣社員雇入契約書兼就業条件明示書を交付する、といったことを履践しているので、セクハラ「防止」義務は履行している、という評価をしています。つまり、そういった対応は当然行うべきであるとともに、それに加えて、実際にセクハラ被害が発生した場合の対応こそが重要になるということです。

また、本判決は、Xが主張した二次被害防止義務は否定しましたが、その理由は、本件でY社の人間が月に2,3回Xに会う機会に、変わったことがないかなどの確認を行い、Xに二次的セクハラ被害の申告の意向があれば対応可能な状況を作っていたことが認められたことによるもので、そういった対応を怠っていれば二次被害防止義務違反も問われた可能性が高いと言えます。

そして、Xは、代わりの派遣先の紹介を受けそこで就労していること、その他人権推進委員会や派遣先で一定の対応が行われていることも考慮され、慰謝料額が50万円に抑えられているようですが、そうでなければ、さらに高額の慰謝料が認められる可能性もありますし、中途解除を無効としてその分の逸失利益が認められないとも限りません

派遣元は派遣従業員に直接相対して業務上の指揮監督を行うわけではないので、派遣先の就業環境に配慮することにも一定の限界がありますが、一度派遣労働者からの申告を受け、就業環境のマイナス面を認識した場合は、派遣先との間で直ちに問題の解消あるいは職場環境の向上に向けて頻繁に折衝を重ね、本人の心理的ケアを含めたフォローに配慮するなど、きめ細やかな対応することが求められると言えます。

特に、グループ会社において本件のような対策委員会を設けている場合であっても、当該委員会の対応に任せっぱなしで派遣元として何ら対応しないというわけにはいかない、という点に注意が必要でしょう。

なお、本件は現在上告中ですので、上告審の判断が出た時点で、また補足して紹介させていただきます。

 

参考

平成24年(ネ)第3444号 損害賠償請求控訴事件

平成25年12月20日 大阪高裁判決

* 事案を分かりやすくするため一部事実を簡略化しています。

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