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民法の大幅改正について

平成30年11月6日

11.その11、債権譲渡に関する改正(1)

今回から数回、債権譲渡に関する民法改正の内容についてご説明致します。

「債権」というと誰かに金銭を請求できる権利を思い浮かべる方が多いと思います。確かに金銭債権は債権の典型なのですが、例えば電車に乗るために切符を買えば、電鉄会社に対し、所定の「運送サービス提供の請求権」という債権が発生していますし、ものを買って後日届けて貰うような場合、買った人には売った人に対する「購入物品の引渡し請求権」という債権が成立します。そういう意味で私たちの日常生活は、意識する、しないにかかわらず、法律的には、誰かに対して何かを請求できる、あるいは誰かに対して何かをしなければならないという債権債務関係の連鎖という形で構成されています。

こういった債権も、基本的には譲渡が可能で、そのことは現行法上も明文で規定されています。ただ、普通の人が「債権の譲渡」を意識することはあまりないでしょう。上記の例でいえば、日常生活上の「債権」がその都度発生はするものの、それには一定の目的があり、これを譲渡する必要も理由もないことがほとんどだからです。金銭債権なら譲渡をイメージすることは可能でしょうが、一般の人にその必要性を感じることがあるかを問えば、まずその必要性を感じられる方もいないでしょう。

チケット屋さんでコンサートや新幹線のチケットの売買をされますと、厳密には「債権譲渡」「債権譲受」が生じているわけですが、これも一般的には「チケット売買」の認識であり、「債権譲渡(譲受)」をあまり意識もされないでしょう。

ところで、債権譲渡は可能なのですが、他方、「譲渡禁止特約」を付すこともできます。債権は主として契約により発生しますが、契約自由の原則により、譲渡できない債権にすることも可能です。この場合、「譲渡禁止特約」の付された債権を譲渡したらどうなるか、という問題が生じますが、判例上は「債権譲渡が無効になる」とされています。

この程度のことであれば、一般の人にしてみれば、「そうなっているのか」というだけで、民法改正では何が問題になったのか分からないということになりますが、実はこの「債権譲渡の自由+譲渡禁止特約」の組み合わせは、事業者にとっては大問題を含んでいました。

事業者にとっては、一般の人には必要のない「債権譲渡」を行う必要が結構生じます。典型的には、例えば売掛債権のような債権を担保にお金を借りるという方法です。担保といっても債権には抵当権など、典型的な担保権を付すことができませんので「譲渡担保」という方式を用いることになり、そのための債権譲渡が行われるのです。また、これも多くの場合、「将来債権の譲渡担保」も併用します。事業者は継続的取引が多く、事業が順調に推移している限り、例えばA社に対して概ね毎月この程度の売上債権が発生するという予測が可能です。「将来債権の譲渡担保」は、例えば乙社において、「過去数年A社に対しては毎月100万円程度の売上が恒常的にあり、事業を継続できれば、今後もほぼ同額の売上が見込める」という場合、例えば来年4月から9月までに予測されるA社に対する○○取引上の売掛債権(概ね600万円)を担保として甲銀行に譲渡し、甲銀行から、例えば400万円の短期事業資金の借入れを行う、というふうに用いられます。商売には時期が重要ですから、現実に資金が貯まってからその資金を注入したのでは遅きに失するという場合もあります。

あくまで借入れの担保ですから、きちんと約定に従った返済が行われる限り、譲渡担保権が実行されることはなく、例えば4月に発生したA社に対する売掛債権は、乙社において回収して甲銀行に約定返済した残額は乙社が取得できます(その代りA社に対する10月分の将来債権を担保として追加することを求められるかも知れませんが)。

これは、いわば今後見込まれる事業活動そのもの(の一部)を担保に供して資金調達できる方法として実務上確立されてきた手法であり、現在も用いられています。「将来債権の譲渡」については、「今は債権として発生もしていないものを譲渡するというのはどういうことか。そんなことが可能なのか。」という理念的な問題もあったのですが、この点は、「それも有効」という点で理解はほぼ一致しています。ただ、法律上その旨の明文規定があるわけではありませんでした。

言い換えますと、経済を廻して行くには、「(将来発生する債権も含めた)債権の譲渡担保」を認める必要があり、実際認められてきた、という経緯になります。

他方、上記の例を債務者に当たるA社から見ますと、担保目的とはいえ債権が譲渡されるということは、「支払先(債権者)が変わる」ことを意味します。継続的な取引では、支払方法も固定化、定型化されていますから、それがころころ変更されるのは面倒なことです。どちらに支払えば良いのか、という問題もあります。そういう意味で、A社には支払先を乙社に固定しておきたいという利益(これを「支払先(債権者)固定効」といいます)があり、その言い分ももっともであるということで、継続的取引に関しては、多くの場合、「譲渡禁止特約」が付されるのです。

つまり、ここでも「譲渡禁止特約」の付された債権が譲渡された場合の効果が、問題になってきます。従来の判例のようにこれを「無効」と理解しますと、上記の甲社は、いざという場合(つまり乙社による借入金返済が滞った場合)にもA社から支払を受けられなくなり、それでは担保に取った意味がありません。また、乙社が例えば破産したような場合の権利関係はどうなるのか等の問題もあります。

このように、資金調達の円滑化の観点からは、債権の譲渡担保を有効なものとして制度的に肯定しなければならないという要求がある一方、債務者(上記のA社)側が求める「支払先(債権者)固定効」も保護しなければならない、という状況の中で、これらを立法により調整する必要が生じ、民法の改正が行なわれた、という経緯になります。次回は、何がどのように改正されたかについてご説明致します。

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