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民法の大幅改正について

平成30年8月9日

8.その8、保証に関する改正(1)

これから何回かに分けて、保証に関する改正事項のご説明を致します。民法制定後100年も経ちますと、制度の持っていた欠点が拡大していき、もはや見過ごせなくなってくるものもあります。「保証制度(特に連帯保証)」もその一つと言えるかも知れません。今回は、保証制度が有していた問題点等を中心に申し上げることにします。

保証債務とは、主債務者が債務の支払をしない場合に、これに代わって支払をすべき義務のことを言います。自分が借りてもいないお金を借りた者に代わって支払わねばならなくなるのですから、好んで保証人になる者はいません。何らかの人間関係上、断り切れずに保証人になることが多いです。日本においてお金を借りたりする場合に保証人を立てるという制度自体は太古の昔から存在したようですが、共同体内部の連座責任、連帯責任という考え方に親和性のある日本人の思考傾向が、保証制度を極端なまでに肥大させていったとも言われています。

保証人になる場合、万が一の場合に自分が負担することになってしまう保証債務の内容を十分に吟味せずに保証契約書に署名、押印してしまう、ということも多々あり、結果として保証人に酷な債務負担を強いることになる、ということも少なくありませんでした。典型例が包括根保証(主債務者が将来借り受ける債務も全部保証すること)でした。

一般に保証人には、その後の主債務者の返済状況が分かりません。債権者から何も言ってこないから順当に返済しているのだろうと思うだけです。まして追加借り入れがなされたことも分かりません。そして、保証人が、保証契約をしたことも忘れた頃に、債権者から、主債務者が多額の負債を返済しきれなくなり、破産したからということで、全額返済の請求を受けるわけです。近代私法の大原則から言えば、「包括根保証の契約書にサインしたのだから仕方がない」ということになるわけでしょうが、それではあまりに酷ではないか、ということになってきました。

そのため、平成16年に行われた民法改正において、上記の「包括根保証」は、そういう契約をすること自体が禁止されることになりました。ただこの改正は、貸金等に関する保証契約に限定した個別改正でしたので、他の契約(例えば家屋賃貸借契約における借家人の保証人)にも及ぼすべきか否かは積み残しになりました。例えば子供が東京で働くことになり、子供が賃貸マンションの契約をするについて親が保証人になり、家賃は月額8万円だったとします。子供が家賃を支払わないと親がその家賃支払を保証することになるのですが、仮に子供が荷物等を残して行方不明になったような場合、家主さんが契約を解除してくれませんと、滞納家賃は月々増加していきます。親は延々と使いもしない部屋の家賃(相当額)を支払う続けることになりかねません。どこかの段階で保証人から保証契約を打ち切ることを認めるべきではないか、あるいは少なくとも保証の限度額(極度額と言います)を定めるべきではないか、という問題があるわけです。

あるいは、中小、零細な会社において、会社が事業資金を借り入れる場合、債権者は、ほぼ例外なく経営者に、連帯保証人になることを求めます。経営者の妻や、役員をしている後継者予定の子供も連帯保証人になることも多くあります。それが貸し付けの条件だと言われると、お金を借りる側としては断れないのが現状です。債権者は、経営者ないしその家族が会社の保証人になることによって会社経営を一生懸命やってくれるだろうと期待するようです。しかし考えてみれば、多くの場合経営者一家の生活は会社の業績に依存していますから、会社の業績が傾くと、経営者の生活も傾くという、一蓮托生の関係にあります。そんな人たちを保証人にしても、(上記の「経営者意識を持って貰う」という点を除けば、)債権者にとってほとんど担保としての意味はありません。むしろ、会社が破産すると経営者一家も共に破産することに直結してしまいますので、経営者一家の生活再建(ひいては事業再建)を阻害してしまうというマイナス面が目立ってきます。日本の会社のほとんどは中小、零細な企業ですので、これは日本の経済全体を考える上でも大きな問題となります。そのため、中小企業庁等行政関与の元で、平成25年に「経営者保証のガイドライン」が定められました。これは法律ではありませんが、債権者となる銀行業界の運用指針として、できるだけ経営者保証を取らない資金貸付を心掛けると共に、仮に経営者保証を取り入れる場合に留意すべき点などを取り決めたものです。

元々民法は、近代法の理念としての、「自由で対等な個人」を前提としています。「合意は守られなければならない」という考え方も、この前提に立っています。身分社会から解き放たれた明治の時期において、「人は自由かつ対等である」という理念が先行したのは当然のこととも言えます。しかし、「自由、対等」というのは、「身分」に対抗するためのスローガンに過ぎず、現実社会は社会的権力関係、経済力、情報量等々において、決して人は自由、対等とは言えない関係にあります。労働法や消費者保護法制は、こういった現実に着目して、特定の分野においては現実に即した法規制を行う、という観点から制定されています。スローガン的に言えば、「形式的自由、平等から実質的自由、平等へ」ということになります。

いずれにしても、上記のような、保証(特に連帯保証)制度において蓄積されてきた諸問題が、もはや社会的にも無視できないことになってきたという共通認識に伴い、これまでの保証制度がかなり改定されることになったのです。

次回以降、保証制度がどのように改正されたのか、具体的にご説明申し上げます。

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