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民法の大幅改正について

平成30年7月3日

7.その7、消滅時効に関する改正

今回の民法改正はかなり大がかりなものですが、大きく分けて、内容自体が変わってしまっているものと、条文の体裁や表現はかなり変更されたものの、これまで不明確であったものや条文が欠けていた部分につき判例が形成されてきたものを明確にして整理しただけで、これまでの扱いと差ほどの変化はないというものに分けられます。皆様方にとっては、結論が同じであれば、条文の体裁や表現にはあまり興味も持たれないでしょうから、今後の連載では、できるだけ内容が変化しているものを中心にご紹介したいと思っています。

ところで、時効には、長年持っていると、他人のものでも自分のものになる「取得時効」と、権利者でも、権利を長年行使しないとその権利が消滅してしまう「消滅時効」がありますが、今回は「消滅時効」に関する改正が行なわれました。

まず、何年間権利を行使しないと権利が消滅するかについてですが、これまで一般債権(お金を貸したが返してくれない場合の貸金返還請求権など)に関する原則は、「権利を行使することができる時から10年」でした。それが「権利を行使することができることを知った時から5年」と、「権利を行使することができる時から10年」のいずれか短い方、ということになりました。

「権利を行使することができる」というのは、権利を行使するについて法律上の障害がないことを意味します。例えばお金を貸した場合、普通は返済期限を定め、法律上、返済期限までは請求できません。従って、貸した時から10年ではなく、返済期限後10年で権利消滅、ということになります。この部分は現行法と同じです。

ただ、お金を貸した方も返済期限を知っていますから、この場合は、前記で言えば「知った時から5年」が適用され、結局返済期限から5年で時効消滅することになります。この部分は今回の改正で新規に導入されたものです。従って、一般の貸金債権などについては、消滅時効完成期間が短くなったと言えますので注意が必要です。権利を行使できることを知っているものは早く権利を行使せよ、ということになります。

なお、相手が行方不明になったので事実上請求できなかった、という場合などについては、法律上請求ができます(方法もあります)ので、「権利を行使することができる」場合に当たります。「相手が逃げてしまったので、行方が分かるまで待とう」などと思っていると、消滅時効が完成してしまうことにもなりかねません。この点も注意が必要です。

ところで、現行法上は、10年より短い消滅時効完成期間が結構定められています。例えば「飲み屋のツケは1年で時効消滅」といった類いの短期消滅時効で、2年、3年というのもあります。職業別短期消滅時効と呼ばれていましたが、商法にも商事時効といって、商行為によって生じた債権は5年ということも定められています。しかし、これらの規定は、残しておくほどの意味がないということで廃止されました。その意味では消滅時効期間が延長されたものもあるのですが、今回の民法改正で、原則として消滅時効の期間が一本化され、すっきりしたと言えます。「権利を行使できる時から10年、知った時から5年」と憶えて下さい。そして「5年」に注意して下さい。

ただ、短期消滅時効の規定で、扱いがまだ決まっていないのが給与債権です。民法上は1年である短期消滅時効が、労働者保護の見地から労働基準法で2年と定められました。しかし、今回、民法上は(知ってから)5年になりました。つまり、このまま放置すると、労働者を保護するはずの労働基準法の方が、消滅時効期間が短いという逆転現象が生じてしまいます。これでは労働者保護になりませんので、現在労働基準法を管轄する厚生労働省で検討中だそうです。「法律」にも管轄があり、民法改正時に、同時に全部を調整できないという面が生じてしまうのです。法律制定日と施行日との間がかなりあいてしまうのは、国民に対する周知徹底期間であると共に、こういう面の調整期間としての必要もあるからですが、早晩結論が出ると思います。多分、民法上の5年に合わせることになるのではないかと思われます。

上記のように、一般債権の消滅時効期間は、知ってから5年、権利を行使できる時から10年が基準になったのですが、他方、債権の中でも生命身体の侵害による損害賠償請求権については、知ってから5年、権利を行使できる時から20年という特例を認めています。

次に、不法行為に基づく損害賠償請求権ですが、これについては現行法上、損害及び加害者を知った時から3年または不法行為の時から20年で消滅すると規定されています。この規定自体は今回の民法改正でも同じです。

そこで、例えば交通事故(不法行為)により、生命身体の侵害による損害賠償請求権(いわゆる「人損」)と、乗っていた自動車が壊れたことによる損害賠償請求権(いわゆる「物損」)が発生した場合は、人損については5年、20年が適用され、物損については3年、20年が適用されます。つまり、「人損」に関しては、これまでは「知ってから3年」内に請求しなければならなかったものが5年に伸びたことになります。生命、身体に対する被害に関しては、保護を厚くする趣旨だとされています。

その他消滅時効に関して変更された部分は他にもあるのですが、取り敢えずもっとも影響のある部分(皆様方にも是非憶えておいて頂きたいこと)は「期間」の変更ですので、今回はその点をご説明致しました。

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