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民法の大幅改正について

平成30年3月7日

3.その3、定型約款について(1)

今回から数回に分けて、改正民法により新設された「定型約款」に関する条項をご説明させて頂きますが、今回は、総論として、「約款取引」というものについてご説明致します。

「約款とは何か」ですが、今まで約款に関する法律上の規定はなかったので、厳密に定義はされていませんでした。ただ、一般には、契約の一方当事者が、契約の内容にすることを目的として作成した条項で、それがそのまま契約条項となるものの総体を指して「約款」と呼び、約款を用いた取引を約款取引と呼んでいます。今回規定されたのも、そういう意味における約款です。

もっとも、法律上の規定は初めてですが、実際には私たちの生活にも浸透しています。例えばスマホを買うと、本体とは別に小冊子を渡されます。その小冊子の中身が「約款」で、そのスマホで提供される通信契約の内容が細かく書いてあります。生命保険契約を締結した場合も同じで、やはり小冊子を渡されますが、それも「約款」で、保険契約の詳細が、これも細かく書いてあります。 ほぼお読みになったことはないと思います。

このように、約款は詳細な契約内容を示している訳ですが、上記の例が示すように、一方当事者(上記の例では通信会社や保険会社)の作成した契約内容がそのまま契約内容になる、という点に特徴があります。また、インターネット上で、新ソフトをダウンロードしようとしますと、契約条項を示した画面が登場し、「同意」ボタンを押さないとダウンロードできません。その条項全体を承諾するか、契約しないか、しか選択できないことになり、これも「約款」の特徴と言えます。

その他、銀行取引約款も比較的知られていますし、電気、ガス、水道といった生活のインフラに関わる契約をはじめとして、不動産取引やその他多くの取引にも、それぞれに「普通取引約款」が作成されています。

何故そういう取引形態ができあがったかというと、それはやはり社会生活上、約款取引が必要であり、有用な場合もあるからです。

「必要である」というのは、例えば電車に乗ろうとする場合、どういう事態が発生すれば運賃が払い戻されるか、といったことを含め、事細かに、約款に書いてあるような詳細な契約内容を個別に合意しないと契約が成立しないのであれば、いつまで経っても電車に乗れません。スムーズに契約締結を行い、円滑にサービス等を提供するには、細かい契約内容は前もって決めておいた方が良い場合も多いのです。

「有用な場合もある」というのは、勿論上記のスムーズなサービス等の提供もその「有用性」の一つですが、典型的には、電気、ガス、水道といった社会インフラの利用に関する契約等がそれに当たります。国営かそれに準ずる形態の事業、あるいはそれらが民営化されたものなどには、概ねこの類型に当たるものが多いと思われます。契約内容の決定過程に、十分自分の意思が反映されるべきだという契約の一般原則よりも、誰もが同じ内容でサービス等の提供を受け得る、ということが優先される契約類型です。鉄道、バス、航空機等の利用契約等もこの種の契約に入れて良いと思われます。

このように必要性も有用性もあり、それ故社会に定着している約款取引ではあるのですが、意思の合致で契約が成立するという契約の一般理論からは、一方当事者が内容を決めてしまうというのは、若干異質な契約形態であることも否めません。もっとも、理論的には異質だといっても、やはり、必要性、有用性が認められて一般に広まっている訳ですから、そんな契約は無効だという考え方はなく、これを有効なものとする理論構成が幾つか提唱されています。

また、何といっても一方当事者が約款で契約内容を決めてしまう訳ですから、その際に、自己が一方的に有利になるような条項や、他方当事者が一方的に不利になる条項を入れる可能性も無視はできません。どういう理論構成によるにせよ、約款取引も有効であるという前提に立つのであれば、そういう条項も有効になるのか否か、という問題が生じてきます。実際、こういったことが裁判で問題になったこともあります。

そこで、これらの問題を根本的に解決するためには、立法によって約款取引を正面から規定し、規制すべき点は規制した方が良いのではないか、という考え方が生じてきたのです。そういう次第ですので、約款取引を正面から規定することになったとはいえ、今まで特に問題もなく続いてきた約款取引がやりにくくなったとか、手続的にややこしくなったというものではありませんので、その点はご安心ください。

ただ、標題を見て頂くと分かりますが、今回民法に規定されたのは「定型取引」に用いられる「定型約款」についてであって、約款一般に関する規定ではありません。「定型約款」に限定することでどういう「約款」が除かれるのか、除かれた約款取引はどのように理解されるのか、といったことを含め、具体的なことは、次回以降にご説明させて頂きます。

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