トップページ  >  連載  > 民法の大幅改正について2

民法の大幅改正について

平成30年2月9日

2.その2、法定利率の引き下げの手続

今回は、法定利率の引き下げについてご説明致します。「法定利率」って何だ、と思われるかも知れませんが、現行の民法404条では、「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。」と定めています。この条文に規定された「年五分(5%)」が法定利率です。この利率が、近時の超低金利の時代では高すぎるということで、3%に引き下げられるとともに、3年ごとに市中金利を参考に見直されることになりました(改正民法404条1項から5項〔条文が長くなりますので、引用は省略します〕)。そのことが、今後皆様方にどのような影響を与えるのかについて、以下、簡単にご説明致します。

普通、利息を生じさせる場合、その利率は当事者で決めますから、「利息」そのものが問題になる場面でこの「法定利率」が問題になることはほとんどありません。「利息」が問題になる例を一つだけ挙げておきますと、「過払い金請求」という言葉をお聞きになったことがあると思います。民法704条は、「悪意の受益者は、その受けた利益に『利息』を付して返還しなければならない。」と定めています(改正民法でも変化なし)。これは不当利得の返還請求を行う場合の規定ですが、上記の過払い金請求において「利息」を請求できる根拠がこの規定です。法律事務所や司法書士事務所の広告などで、「過払い金が○○万円戻ってきた。」というフレーズがありますが、この○○万円の中には利息分がかなり含まれています。お金を借りるときに過払い金の発生を予定する人はいませんから、利息が発生するという規定はあっても、利率を決めているということもありません。そういう場合に用いられるのが「法定利率」で、これまでは年5%であったものが、2020年に施行が予定されている改正民法では、3%になります。ただ、附則で経過措置(15条1項)があり、現状で発生している過払い金の「利息」はなお5%で計算できます。

また、「利息」ではなくても「法定利率」を用いて計算する場合もあります。民法419条には「金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。」という規定があります(改正民法では規定がやや詳しくなりましたが、趣旨は同じです。)。お金を貸したが期限を過ぎても返して貰えないような場合に適用される規定です。「法定利率」を用いますので、一般に「遅延利息」と呼ばれたりしますが、その性質は利息ではなく損害金です(従って、正確には「遅延損害金」といいます。)。法定利率で計算することになっていますので、これも同じく基本3%に引き下げられることになります。ただし、これにも経過措置(附則17条3項)があり、改正民法施行までに債務者が遅滞の責めを負った場合は、年5%で計算します。

もう一つ、法定利率が用いられる例として、例えば交通事故で死亡したような場合、死亡した人の遺族は加害者に損害賠償を請求しますが、死亡した人に発生する損害項目に「逸失利益」というものがあります。例えば年収500万円を得ていた人が亡くなり、あと20年は働けた、という場合、将来的には500万円×20年=1億円の収入が得られたはずで、それが得られなくなったことは損害になります。ただ、ここで、「『将来』に発生する損害を『今』支払って貰う」ことによる問題が発生します。損害賠償の原則は、「発生した損害を填補する」ものですから、仮に1年後に500万円の損害が発生するのであれば、加害者は1年後には500万円を支払わねばなりませんが、逆に言うと1年間は500万円を運用して一定の利益を得られたはずです。被害者にしても、今500万円を受け取れば、それを1年間運用できる分、余分な利益まで得てしまうことになります。これでは不公正だということで、今支払って貰える金額は、前もってその運用利益分を引いた額になる、という考え方が出てきます。その運用利益を「利息相当額」と考えて前もって控除することにしたのが「中間利息控除」という考え方で、その利率を「法定利率」で行うことになっています。この点は、現行民法に直接の規定がなかったのですが、改正民法417条の2(同722条1項)で明文化されました。

「ライプニッツ係数」とか「ホフマン係数」という言葉を聞かれたことがおありの方もおられると思いますが、これは、「中間利息控除」の計算を個別に行うとややこしいので、期間ごとに全体の控除率を前もって計算し、全体を示す1から差し引いて係数化したものをいいます。上記の例では、1億円にライプニッツ係数あるいはホフマン係数を乗じて、「現在受け取れる金額」を計算することになります。いずれも法定利率を用いますが、複利計算するのがライプニッツ係数、単利計算するのがホフマン係数です。同じく経過措置がある(附則17条2項)ので、改正法施行日までの生じた事故の場合、逸失利益に関しては5%で中間利息控除が行われてしまうことになります。致し方のない面もありますが、逸失利益は多額になることも多いですし、支払われる賠償金が残された家族の貴重な生活費になることを考えますと、私個人的には、もう少し何とかならなかったのか、という感はあります。

いずれにしても、改正民法施行日以降に生じた事故に関する逸失利益の計算については中間利息の控除率が減りますので、逸失利益が生じるような事故の場合、「支払額」としてはかなりの増額になる場合も生じてきます。交通事故の損害賠償金が、概ねは保険会社から支払われるという実情を前提にしますと、改正民法施行日以降、損害賠償保険の掛金が増額される可能性も生じてくると思われます(保険の掛金の額は、事故発生率にも影響を受けますので、交通事故発生率が下がれば、個々の事故での賠償額が増加しても、掛金は据え置き、ということもあり得ますので一概には言えません)。自動車の運転をされる方は多いと思いますので、もし「法定利率の引き下げ」を契機として損害賠償保険の掛金が増額になれば、これが一番皆様方に影響のあることかも知れません。

top