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独占禁止法

平成29年3月12日

23.フリーランサーと取引のの独禁法

フリーランサーとの取引に対する独禁法の適用

去る2月15日、公正取引委員会に設置された「人材と競争政策に関する検討会」(以下「検討会」といいます。)からの報告書の公表がありました。この報告を契機に、公正取引委員会は、企業と雇用契約を結ばずに働くフリーのプロフェッショナル人材ら(代表格がフリーランサーなので、総称して「フリーランサー」といいます。)との取引に係る取引分野についても、独禁法を積極的に適用していく姿勢をとるものと思われます。

 一口に、フリーランサーといっても、今回の調査対象は、プロ野球選手の移籍から内職的な仕事まで多岐に及んでおり、常識的に見て、同一の俎上または判断材料で統一的に考察することが難しいものがあり、また、どこの町や市でも普通に見られるような取引でないものもあり、独禁法をよく知っていないと、読んでもよくわからないところです。

そこで、今回は、検討会で具体的に検討したフリーランサーの取引類型を整理し、そのうち、よくある企業のフリーランサーとの取引類型を抽出し、その上で、独禁法をどのように事件にアテハメしていくのか、今回の報告を基に、どのような取引がクローズアップされるであろうかについて、まとめてみました。

検討会が具体的に検討したフリーランサー取引類型

①は、システムエンジニア、プログラマー、IT技術者、記者、編集者、ライター、アニメーター、デザイナー、コンサルタントなど、と、スポーツ選手、芸能人など。

③は、民法上の雇用、請負、委任等の契約。

よくある企業のフリーランサーとの取引で問題になりうる類型

 企業が、プロスポーツ選手を雇い競技会を開催することや、芸能人を雇いテレビ番組などに出演させる事業活動に伴い実施されている取り決めや慣行等について、相当ウエイトを置き、種々の独禁法上の問題点を指摘しています。確かに、知識としては興味がそそられるところもありますが、広く一般の企業が事業を行う上では必ずしもかかわりのないことです。むしろ、企業が、個人に対して、プログラムの作成、システムの管理、デザイン、文書の編集などをアウトソーシングすることが増えてきています。

したがって、こちらの分野の取引が一般企業にかかわりが強いので、改めてこれまでの取引を見直す必要があります。

独禁法の趣旨と違法の判断基準(一般論)

独禁法は、国民経済の民主的で健全な発達を促進、すなわち、消費者が、市場にある商品・役務についての情報を得(知らされる権利)、廉価良質な商品・役務を選択できる(選ぶ権利)ような経済秩序を造っていくことを目標としています。

 

そのための手段が、公正かつ自由な競争、すなわち、市場支配力(バルーン:競争が活発であればできない、自己に有利な取引条件を設定できる市場での地位をいいます。)を行使しようとする者がいたとしても、その行使を抑制できるのに十分な競争を確保、維持することなのです。

この公正かつ自由な競争を確保・維持するために、独禁法は、事業者に対して、 公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにするため、一定の行為を禁止しています。

一定の行為とは、① 競争を実質的に制限するもの、② 競争を実質的に制限することになるもの、③ 公正な競争秩序に反するものです。競争の実質的制限と公正な競争秩序違反との関係は、後者は前者の小型版、または、放置しておけばやがて前者となるような状態をいいます。

「競争を実質的に制限する」とは、市場支配力を形成、維持、強化することをいいます。

「公正な競争秩序に反する」(以下、「公正競争阻害性」といいます。)とは、自由競争を減殺するか、競争手段が不公正か、自由競争基盤を侵害するかの一または複数に係ることをいいます。

 

要するに、

 

なんらかの取引に係る行為があったとして、

それがいずれかの市場について、

競争を実質的に制限するか、それとも、公正な競争秩序に反するといえるか

 

が問題になります。

 

イメージはこちらを参照ください。

よくある企業のフリーランサーとの取引において独禁法上注意すべき行為

(「人材と競争政策に関する検討会」報告書12Pより)

▲は、合理性の有無で判断。

×は、原則違法。 

▽は、正当化されるための判断資料や要件。

 

1 不当な取引制限⇒競争の実質的制限

× 複数の発注者(使用者)が共同して役務提供者に対して支払う対価を取り決める

× 複数の発注者(使用者)が共同して役務提供者の移籍・転職を制限する内容を取り決める

 

▲ 複数の発注者(使用者)が共同して役務提供者との取引条件を決定する

▽ 共同行為によってもたらされる競争促進効果の有無、社会公共目的の有無、手段の相当性の有無

▲ 事業者団体などにおいて、一定の商品・サービスの供給に必要な役務提供者についての自主的な資格・基準を定める

▽ ①需要者の利益を不当に害するものではないか、②発注者(使用者)間で不当に差別的なものではないか、との判断基準に照らし、③社会公共的な目的等正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものか

 

2 不公正な取引方法⇒公正競争阻害性

(1) 競争減殺

× 商品・サービス市場において高いシェアを有する発注者の制限行為が、同市場において競争関係にある他の発注者の供給や参入を困難とするおそれを生じさせる

▽ 競争促進効果の有無、社会公共目的の有無、手段の相当性の有無

× 役務提供者に対して合理的な理由なく行う以下の行為により、他の発注者が商品・サービスを供給することが困難となるなどのおそれを生じさせる

・役務の成果物について自らが役務を提供した者であることを明らかにしないよう義務付け

・成果物を転用して他の発注者に提供することを禁止

・役務提供者の肖像等の独占的な利用を許諾させる

・著作権の帰属について何ら事前に取り決めていないにもかかわらず、納品後や納品直前になって著作権を無償または著しく低い対価で譲渡するよう求める

 

(2) 不公正な競争手段

× 発注者が役務提供者に対して実際と異なる条件を提示して、または役務提供に係る条件(例えば、他の発注者への役務提供の制限)を十分に明らかにせずに取引することで、他の発注者との取引を妨げる

 

× 発注者(使用者)が役務提供者に対して義務の内容について実際と異なる説明をし、またはあらかじめ十分に明らかにしないまま役務提供者が秘密保持義務、競業避止義務または専属義務を受け入れる

 

(3) 自由な競争基盤の侵害

× 優越的な地位にある発注者(使用者)が行う不当な不利益を与える以下のような行為

▽ 発注者が通常企業であるのに対して役務提供者が個人で事業を行っていることが多いという人材獲得市場の事情は、役務提供者の優越的地位の認定における考慮要素となる。

・役務提供者に対して課す秘密保持義務、競業避止義務または専属義務等

 

・役務提供者に対して制限・義務等の内容について実際と異なる説明をし、またはあらかじめ分に明らかにしないまま役務提供者がそれを受け入れる

 

・代金の支払遅延、代金の減額要請及び成果物の受領拒否(*)

・著しく低い対価での取引要請(*)

・成果物に係る権利等の一方的取扱い(*)

 

*は、取引の類型、当事者の関係によっては、下請法が適用されます(参照)。

 

・発注者との取引とは別の取引により役務提供者が得ている収益の譲渡の義務付け

 

・発注者(使用者)が役務提供者に対して事実とは異なる優れた取引条件を提示し、または役務提供に係る条件を十分に明らかにせず、役務提供者を誤認させ、または欺き自らと取引させる

 

以上のように、よくある企業のフリーランサーとの取引類型について、独禁法上注意すべき点は、独禁法の機能をしっかり理解すれば、注意すべき点はおのずと明らかになるものであり、フェアーに取引していれば、独禁法は企業にとって味方にこそはなっても、敵にはならない法律です。もっとも、独禁法的観点から、「何がフェアーか」、あるいは、「違法ではないか」は市場の競争状態によっても左右され、価値判断を要するので、難しい場合があります。

なお、今後、働き方改革により、労働者の残業時間の総量規制がかかる見込みであり、今度は、フリーランサーが割を食う恐れがあるため、労働者保護の観点からも、最低賃金規制など立法措置が施される方向との報道があります。

末筆ながら、調査により把握された事例に基づき、「個人が個人として働きやすい環境を実現すべく」、人材の獲得をめぐる競争に対する独占禁止法の適用関係及び適用の考え方を理論的に整理したとまとめています。しかし、そもそも、独禁法は、事業者に競争させ消費者に廉価良質な商品・役務を選択できる秩序を形成・維持する法と思います。そうであれば、本件のようなフリーランスが取引対象の場合、個々人の提供する個々の役務≒人格が純粋に市場原理に基づいてその価値が測定されるとして、独禁法を執行していくものであり、私的には勇み足かなと感じました。

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