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独占禁止法

平成27年9月1日

20.取引の保護と独禁法の役割-神鉄タクシー事件から-

独禁法のエンフォースメント(実現)

ミクロ経済学は、完全競争市場を前提に、市場メカニズムが資源の効率的配分を達成することを明らかにしています。アダムスミスが描いた見えざる手の解明です。

しかし、今現在、この世の中に完全競争がある、達成可能などと信じている人は誰もいません。企業の規模は著しく異なり、企業が供給する商品はブランド化・差別化が進み、情報は売り手と買い手とで対称でなく、大規模な初期投資等の問題もあり、市場への参入も容易ではありません。

市場の競争が不完全だからこそ、独禁法が制定され、行政(公正取引委員会)が、市場の番人になり、「自由かつ公正な競争」を維持させることによって、国民が経済的・社会的利益を享受できるようにされました。

ですから、第一次的には、カルテル、私的独占及び不公正な取引方法など「自由かつ公正な競争」秩序に反すると認められる行為がある場合、公正取引委員会による競争回復のための排除措置命令などの行政処分によって競争秩序が維持される設計になっています。

しかし、それだけでなく反競争的行為によって、事業者又は消費者の利益が害される場合、公正取引委員会の処分を待たずに、最も利害関係の強い当事者が、自らのイニシアティブにより、独禁法の条文を援用し、その利益を確保することも認めています。つまり、私人に対し、独禁法に基づき裁判所に訴える権利を認めることで、「自由かつ公正な競争」秩序維持のための働きの一翼を担わせています。

そこで、今回は、身近な事件に独禁法が適用された裁判例を紹介することで、独禁法を利用して権利回復ができること、及び、独禁法が身近な法律であることを感じていただきたいと思います。

神鉄タクシー事件

タクシー事業者であるXらが、同じくタクシー事業者であるYに対し、

(1)
YがXらの運転するタクシーをタクシー待機場所(複数)に進入すること、
(2)
Yらがこれらのタクシー待機場所においてタクシー利用者を乗車させることを妨害しているなどとして、

①行為の差止め、②損害賠償の請求を求めました。

裁判では、①、②とも認容されました。

どのような事案に、どのような条文が適用されたか。

(1)タクシー会社間の縄張りをめぐるいさかい

本件は、神戸市などを営業区域とするタクシー業者間のタクシー待機場所の利用を巡ってのいざこざです。

問題となったタクシー乗り場は神戸電鉄のとある駅前のタクシー乗り場での話です。

もともと、Yは、昭和49年頃、その親会社である電鉄会社が駅舎を新築した際、費用を負担してタクシー待機場所を整備し、また、タクシー利用者の待合場所として、道路の一部を神戸市から賃借していました。その後40年近く専用使用してきました。

ところが、最近になり、Xらが、そのタクシー待機場所に乗り入れるようになりました。

これに対し、Yは、専用使用権を侵されたとして、同社の労働組合も巻き込んで、実力で阻止する活動に出たのです。

具体的には、Yの労働組合員がXらのタクシーの前に立ちはだかったり、Yのタクシーを割り込ませたりするなどして、Xらがタクシー利用者をタクシーに乗車させることを妨げたのです。

そうなっては、Xらは、このタクシー乗り場で営業ができないとして、裁判所に救済を求めたのがこの事件です。

(2)利用した独禁法の条文

相手の行為が不公正な取引方法に当たる場合、その行為の差し止めを求めることができます(独禁法24条)。

不公正な取引方法には、16類型あります。そのうち、本件で援用されたのは、不当な取引妨害といわれる行為類型です。

被害者であるXらから見れば、不当な取引妨害と言えるためには、

Yが事業者であり、
Xと競争関係にあり、
Xのタクシー利用者との取引について
契約の成立の阻止するなど、いかなる方法をもつてするかを問わず、その取引を不当に妨害していることが要件です(独禁法19条、一般指定14項)。

本件では、①から④の要件が認められました。

その上で、差止が認められるためには、

①その妨害行為によってXらに著しい損害を生じ、又は

②生じるおそれがあることが

必要です(独禁法24条)

本件では、

タクシー待機場所においてタクシー利用者と旅客自動車運送契約を締結する機会を ほぼ完全に奪ったこと
今後もタクシー待機場所において同様の行為をしてXらからタクシー利用者と旅客自動車運送契約を締結する機会をほぼ完全に奪うことが予想されること
手段として待機場所に進入しようとした原告側タクシーの前に立ちはだからせたり、物理的な実力を組織的に用いたものであることから、

著しい損害の要件を満たすとしました。

まとめ

今回は、契約関係にない、競争事業者の事実行為に対して、独禁法が調整を果たした事件です。

これに対して、契約関係にある事業者間であって、かつ、契約内容が独禁法に反する場合には、独禁法の規定が優先し、当該規定が無効になることがあります。確かに、契約は守らなければならないというのが私的自治の大原則です。しかし、契約内容は、時として独禁法など強行規定によって修正されます。

事業者にとって、身を守る道具の一つとして、独禁法を少し身近に感じていただければ幸いです。

なお、Yらが一方的に悪者のように書かれていますが、本件の問題の根源は、Yの単なる既得権の主張というのではなく、Yが神戸市と締結した道路の利用に関する覚書の解釈として、Yに排他的な占有権があると信じていたことでした。タクシー運転手同士が、お互いに手を出すような事態もあり、自力救済的な要素もあり、権原関係によっては、微妙なところもあったと思われます。

事例

平成26年10月31日 大阪高裁 営業妨害予防等請求控訴事件判決

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