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独占禁止法

平成27年6月1日

19.新規参入と独禁法の役割-JASRAC最高裁判決から-

あること(sein)とあるべきこと(sollen)の違いを見極めること

独禁法は、消費者が、市場にある商品・役務についての情報を得(知らされる権利)、廉価良質な商品・役務を選択できる(選ぶ権利)ような経済秩序を造っていくことを究極の目的にしています。

そのために、独禁法は、市場支配力を行使しようとする者がいたとしても、その行使を抑制できるのに十分な競争(「公正かつ自由な競争秩序」)が確保できるよう市場を監督しています。

公正かつ自由な競争秩序は、あるべきこと(sollen)です。

他方、日本人の気質から言えば、どちらかといえば、既にできあがっている体制、慣習、慣行(sein)に対して、受容的又は甘受的ではないでしょうか。

既得権企業と新規参入企業、大企業と中小企業などの構図において、seinを甘受せず、sollenを指向して、市場の競争状態を改善する方法も、重要な経営戦略であり、独禁法も経営資源です。

この点について、つい最近、最高裁判所で示された私的独占に関する重要な判断をご紹介します。

JASRAC事件

イーライセンスが、JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)に対して、音楽著作権管理ビジネスの参入を試みました。

しかし、厚い参入障壁に阻まれ、実質的に市場に参入できませんでした。あるいは、先行業者の既得権に阻まれたと言ってもいいでしょう。

そこで、イーライセンスは、これが独禁法に違反するものであるとして、裁判所に救済を求めたのがこの事件です。

何が参入障壁だったか

音楽著作権の管理は、もともと、日本ではJASRACの独占事業でした。しかし、法律改正により、平成13年10月1日から、他の事業者の参入も自由になりました。

独占企業だったJASRACは、2つの手数料計算方式を用意していました。1楽曲ごとに計算する方法と放送等使用料の額を放送事業者の放送事業収入に一定率(例えば、1.5%)を乗ずる等の方法(「包括徴収」)です。

包括徴収の方が、放送事業者にとってはるかに安いものでした。

包括徴収によれば、放送事業者が支払う放送等使用料に、放送事業者が放送番組において利用したJASRACの管理楽曲の割合が反映されないため、放送事業者がJASRAC以外の管理事業者の管理楽曲も利用しその放送等使用料を支払わなければならない場合、その放送事業者が負担する放送等使用料の総額がその分だけ増加してしまう仕組みになってしまっています。

わかりやすく言えば、もともと独占企業であったJASRACが放送局に対して、ほとんどの音楽著作権を固定額で提供しているところに、新しい企業が、利用に応じて料金を徴収する料金体系で参入しようとしても、放送局にとって、その分だけ仕入代金が増えてしまう。それなら、放送局は、新しい企業から音楽著作権を仕入れようとしないということです。

(公正取引委員会ホームページより)

イーライセンスのしたこと

イーライセンスは、JASRACの手数料の徴収体系が、新規事業者の参入を妨げるものであり、独占禁止法2条5項の排除型私的独占に該当するとして、裁判所に救済を求めたものです。

なお、公正取引委員会のなした審判に対して、公正取引委員会の自らの見直しの判断が誤っているとして、裁判所に取消を求めたものです。

最高裁の判断

JASRACは、2つの手数料計算方式を用意していましたが、1楽曲ごとに計算する方法に比して、年間まとめていくらという包括的な計算方法の方がはるかに安いことから、放送事業者による管理楽曲の放送利用に係る利用許諾に関する市場において、放送事業者は後者を選択し、他の事業者の参入が妨げられていることが認定されました。

その上で、JASRACの行為は、別異に解すべき特段の事情のない限り、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するとしました。

最後に

電力、通信など自然独占と呼ばれてきた領域にも競争原理が適用され、独禁法の是とする公正な競争秩序の適用領域が拡大してきています。パラダイムのシフトに伴い、新規の競争者を受ける側にも意識と行動の改革が必要となります。

市場のプレーヤーである企業におかれては、既にあることを是として受容するだけではなく、一度、一歩引いて立ち止り、これが公正かつ自由な競争秩序といえるか、考えてみてください。

事例

平成27年4月28日 最高裁第三小法廷判決 審決取消等請求事件

平成25年11月1日 東京高裁判決 審決取消等請求事件

平成21年(判)第17号 審決

平成21年(措)第2号排除措置命令書

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