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独占禁止法

平成25年6月29日

15.中小企業から見た独禁法 ―3条書面交付・5条書面保存義務―

これまで、11の違法類型について、違反頻度の高いものから順にお話ししました。今回は、各違法類型の説明の中で、何度か引用した3条書面について、少し詳しく説明します。

商取引の都度契約書を作成するということは、至極当然のことです。しかし、現実には取引を開始してから契約書を作成(時に、遡って署名捺印)することがよくあります。

3条書面の問題は、当たり前のことを当たり前のこととして実行してもらい、紛争を予防する趣旨に出たものです。

併せて、取引にかかる記録を保存させること(5条)で、規制当局による違法行為の是正を容易にしました。

3条書面交付・5条書面保存義務

(1)条文

第三条

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。

第五条

親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、公正取引委員会規則で定めるところにより、下請事業者の給付、給付の受領(役務提供委託をした場合にあつては、下請事業者がした役務を提供する行為の実施)、下請代金の支払その他の事項について記載し又は記録した書類又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成し、これを保存しなければならない。

 

(2)意義・趣旨

予め契約内容を書面にしないで取引が行われることがよく見られます。

このような場合、不利益を被るのは、決まって交渉力に劣る弱者です。

そこで、法律は、親事業者に対して、所定の内容について、書面の交付を義務付け、契約の内容を明確にすることで紛争の予防を図りました(下請法3条)。

併せて、親事業者に対し、違法行為の有無を判断するうえでカギとなる事実を書面化させ、規制当局による事後的な違法行為の是正を容易にしました(下請法5条)。

そして、親事業者によるこれらの義務の履行を確保するため、書面の交付・保存義務に違反した場合には、罰金刑を科すことにしています。

  

(3)記載すべき事項

  3条書面交付 5条書面保存義務
当事者 親事業者および下請事業者の名称 下請事業者の名称
発注日 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託または役務提供委託をした日
契約の目的 下請事業者の給付の内容
履行日 下請事業者の給付を受領する期日 下請事業者から受領した給付の内容および給付を受領した日
履行場所 下請事業者の給付を受領する場所  
検収 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は、検査を完了する期日 下請事業者の給付の内容について検査をした場合は、検査を完了した日、検査の結果および検査に合格しなかった給付の取扱い
変更   下請事業者の給付の内容について、変更またはやり直しをさせた場合は、内容および理由
下請代金 下請代金の額
支払期日 下請代金の支払期日
下請代金の変更   下請代金の額に変更があった場合は、増減額および理由
支払日   支払った下請代金の額、支払った日および支払手段
手形 手形を交付する場合は、手形の金額および手形の満期 下請代金の支払につき手形を交付した場合は、手形の金額、手形を交付した日および手形の満期
一括決済方式 一括決済方式で支払う場合は、金融機関名、貸付けまたは支払可能額、親事業者が下請代金債権相当額または下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日 一括決済方式で支払うこととした場合は、金融機関から貸付けまたは支払を受けることができることとした額および期間の始期並びに親事業者が下請代金債権相当額または下請代金債務相当額を金融機関へ支払った日
電子記録債権 電子記録債権で支払う場合は、電子記録債権の額および電子記録債権の満期日 電子記録債権で支払うこととした場合は、電子記録債権の額、下請事業者が下請代金の支払を受けることができることとした期間の始期および電子記録債権の満期日
原材料等支給 原材料等を有償支給する場合は、品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日、決済方法 原材料等を有償支給した場合は、品名、数量、対価、引渡しの日、決済をした日および決済方法
下請代金の一部支払い   下請代金の一部を支払いまたは原材料等の対価を控除した場合は、その後の下請代金の残額
遅延利息   遅延利息を支払った場合は、遅延利息の額および遅延利息を支払った日
  

(4)問題になる場合

記載すべき事項について、平成23年度において、3条書面交付または5条書面保存義務の違反の指導は4,528件,前者が、3,813件、後者が、715件となっています。これまで見てきた11の違法行為類型の違反の合計2,286件に対しても、大きな件数に上っています。

では、どのような行為が義務違反とされるのでしょうか。平成23年度の報告によれば、「3条書面交付義務違反については,発注書面の不交付のほか,記載不備も含まれる」となっておりますので、形式的に書面を交付すれば書面交付義務を果たしたということとしては扱われていません。他方、5条書面保存義務違反については、このようなコメントがないので、形式的に書面が保存されていれば一応義務を果たしたとして、書面保存義務違反としては扱われていないことがわかります。

しかしながら、3条書面交付義務について、現実にどの項目について、どの程度不備のある書面だったから、交付義務違反だったというような個々の事例までは、公表されていません。

そこで、法の趣旨に遡って考えてみる必要があります。そもそも書面を交付するのは、契約の重要な事項が定められていれば、両当事者の基準になり後日の紛争を防ぐということにあります。

そうであれば、取引通念に鑑みて、当該文言から基準や内容が明確に読み取れるかということになります。例えば、発注した部品名と数だけで単価が書いていないこと、発注したプログラムの名前だけで具体的仕様が書かれていない場合は、書面交付義務を果たしたことになりません。反対に、単価が確定されていなくても、単価を購入時の時価とする場合などその具体的な算定方法(準拠資料)が示されていたり、全事項が交付書面に記載されていなくても、継続的取引関係があり、共通の事項(例えば、支払方法、検査期間など)について、別に定められた別紙を参照されていたりすれば、基準や内容が明確に読み取れる場合は、書面交付義務を果たしたことになります。

なお、必ずしも「上記の義務違反=(即)50万円以下の罰金」ということにはなりません。罰金刑を科すか否かについては、形式的に法に反したかだけでなく、その違法性や社会に対する影響などを考慮して、検察官が判断することになっているからです。

このように見ていくと、3条書面交付義務に違反するか否かは、白か黒かの問題ではなく、程度の問題になるので、見かけほど単純な問題ではないということです。本来、5条書面保存義務についても同じ論点があると思われます。

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