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独占禁止法

平成24年8月26日

3.中小企業から見た独禁法 ―下請法の発動例―

中小企業の利益を守る下請法は、実際にどのように発動されているのでしょうか。

公正取引員会の公表している下請法等の運用状況に関する報告によれば、平成23年度の勧告下請法7条の規定に基づくものであって、公表される。従わなければ、より強力な排除措置命令につながる。件数はで過去最多の18件(うち近畿地区は2件)ということでした。内訳は、製造委託等15件、役務委託等3件でした。製造委託等15件のうち10件が卸・小売業者によるプライベートブランド商品等の製造委託でした。勧告の対象となった違反行為類型の内訳は、下請代金の減額が18件、返品及び不当な経済上の利益の提供要請が各3件、受領拒否及び有償支給原材料等の対価の早期決済が各1件でした。下請代金の減額は、最も直接的で古くて新しい下請けいじめの横綱です。

勧告に至らない指導は、過去最多の4,326件(製造委託等3,317件、役務委託等1,009件)(うち近畿地区は1,200件)ということでした。 

  

では、平成23年度における勧告事件の内容はどのようなものであったでしょうか。

一覧にすると下記の表のようになります。

  受領拒否(第4条第1項第1号)

下請代金の減額

(第4条第1項第3号)

返品

(第4条第1項第4号)

有償支給原材料等の対価の早期決済

(第4条第2項第1号)
不当な経済上の利益の提供要請 (第4条第2項第3号)
①センコー㈱   「手数料」として一定率      
②生活協同組合連合会コープ中国四国事業連合   「情報処理料」として電子発注データの記載行数に一定額を乗じた額又はファクシミリによる発注書の送信枚数に一定額を乗じた額     「チラシ掲載料」として一定額
㈱ケーヒン   単価引下合意日前に発注した部品について、引下前の単価適用額と引下後の単価適用額との差額(単価引下の遡及      
木下工業㈱   「口銭」として一定率を乗じて得た額      
郵船ロジスティクス㈱   「値引き」として一定率を乗じた額      
王子運送㈱  

一定額を超えた場合に「割戻金」として下請代金の額から未収金等の額を除いた額に一定率を乗じた額
「事務手数料」として下請代金の額から未収金等の額を除いた額に一定率を乗じた額又は一定額

「金利手数料」として下請代金の額から未収金等の額を除いた額に一定率を乗じた額
     
㈱タカキュー  

「消化促進値引き」として自社の在庫数量に一定額を乗じて得た額

「一時返品特約」に基づき販売期間の終了した在庫商品   左記の返品を行うに当たり、送料としての金銭
㈱協和  

「販促協賛」として一定率を乗じて得た額

特別価格』協賛」として自社の一部の取引先に対する納入数量に一定額を乗じて得た額
     
㈱サンエス  

「本部リベート」として一定率を乗じた額又は納入数量に一定額を乗じた額

ファクシミリによる発注に係る費用として発注書面の送信枚数に一定額を乗じた額
 

菓子の製造に必要な包装材料を自社から購入させた場合に、当該包装材料の対価について、当該包装材料を使用して製造した菓子に係る下請代金の支払

菓子の製造中止等により不要となった包装材料の対価に相当する額の一部
 
㈱チヨダ  

「歩引」として一定率を乗じた額
「事務手数料」として一定率を乗じた額及び一定額
「コンクール協賛金」として一定額 「MDサークル協賛金」として一定額

自社の店舗を改装・閉店、販売期間終了の際、在庫商品   「広告協賛金」としての一定額
㈱髙山  

「特別条件」等として一定率を乗じた額又は納入数量に一定額を乗じて得た額

「センターフィ」として一定率を乗じた額
     
㈱イヤサカ   「値引き」として一定率を乗じた額      
はるやま商事㈱  

「オンライン基本料」「データ提供料」又は「伝票発行」として一定額等
「超過保管料金」として自社の物流センターへの納品後一定期間を経過した商品の在庫数量に一定額を乗じた額

「マークダウン」として自社の店頭販売価格を引き下げることとした商品の在庫数量に一定額を乗じた額
下請事業者の製造した販売期間が終了し在庫となった季節商品であること、売行きが悪く在庫となった商品であること等を理由として又は受領後6か月を経過した商品    
㈱たち吉 発注書面に発注数量の全量を受領する期限として記載した「予約期間」の末日を経過しているにもかかわらず、発注数量の一部について、下請事業者の製造した商品

「カタログ製作協賛金」として一定率を乗じた額

「開発関与料」として一定率を乗じて得た額 「仕入歩引」として一定率を乗じた額
     
八木兵㈱  

「特別協賛金」として一定率を乗じた額

「協賛金」として(上記の「特別協賛金」として減じた額等を除く。)に一定率を乗じた額
     
㈱大創産業  

現金により行うこととしている下請事業者に対し、「歩引」として一定率を乗じた額

5月及び10月は現金により、その他の月は手形の交付により行うこととしている下請事業者に対し、「歩引」として5月及び10月に支払うべき下請代金の額に一定率を乗じてた額
     
福岡造船㈱   「割引料」として一定率を乗じた額      
トーハツマリーン㈱   引下前の単価で発注した部品について、引下前単価適用額と引下後単価適用額との差額(単価引下の遡及      

この表から一見してお分かりのように、街を歩けば目にしたり、マスメディアで名の通っているいわゆる大企業ばかりです。公正取引委員会の人的資源の制約から、被害企業が多く、被害金額も多い、広がりのある事案のみが勧告の対象となっています。「違法行為→勧告→公表」が限定的になるにしても、これほどの企業でありながら、最も初歩的な代金減額の禁止に反するなど、大企業側での会社のコンプライアンス体制の構築と維持の難しさが読み取れます。もっともらしい名目が付されていることにより、親事業者での法務部による内部監査をすり抜けたり、自社に甘かったりするところもあろうかと思います。

他方、もっともらしい名目が付されていることは、下請事業者にとっても、経済的に依存していることと相まって、受け入れざるを得なくもなっているように見えます。

例えば、代金減額について、単に納品時に至り、ストレートに請負代金の減額を迫るのではなく、「手数料」、「事務手数料」と書かれればそれだけでそれなりにもっともらしいでしょう。それどころか、「情報処理料」として具体的な算定根拠まで用意されれば、なんでこんなところまでとの疑問が生ずるものの、そういうものなのかな、と思ってしまえば、訂正する機会を失い、常態化してしまいます。「割戻金」と銘打たれれば、一般には取引高による報償であり、見過ごされがちです。「コンクール協賛金」、「カタログ製作協賛金」などといわれれば、親事業者と下請事業者は、持ちつ持たれつの関係だから、販売促進として協力しなければならないかとも思ってしまします。

また、親事業者が下請事業者に対し、材料を提供している場合に、製造中止等により不要となった包装材料の対価に相当する額の一部を負担させていたというケースでも、共同で事業をしているので、痛み分けを求められればいたし方ないという発想があったのかもしれません。

さらに、販売期間の終了した在庫商品を返品されることについても、下請事業者が自分で製作した物が所定期間内に売りさばけなかったのだから、自分にも責任の一端があるのではという負い目もあり、引き取らざるを得なかたのかもしれません。それにしても、送料まで下請事業者負担というのはあまりにもと思います。

このように、取引の過程で発生する現象を注意して冷静に観察しない限り、親事業者の安易な論理に流され、下請事業者は長い期間に大きな損失を被りかねません。

特に、中小企業の方は、今の取引の有り様を、所与のものとして見るのではなく、一度距離を置いて、これはいったい公正な取引なのかどうか、観察してみてください。

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