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独占禁止法

平成24年8月21日

2.中小企業から見た独禁法 ―下請法の活用法2―

大企業が中小企業に対する優越的地位を利用して、中小企業の犠牲の下に、大企業が利益を得ているケースに対して、独禁法と並んで、下請法が発動されます。世間で、下請法と言われている法律は、正式には、「下請代金支払遅延等防止法」と言います。

下請法は、下請取引の公正化を図り、下請事業者の利益を保護することを目的としています。

下請法が規制している違法行為類型は、独禁法で言う「優越的地位の濫用」に当たる行為です。確かに、「優越的地位の濫用」と認定されれば、その違反企業は、公正取引委員会の出す排除措置命令の力で、例えば、従業員の派遣の強制とか、代金の減額など、将来の行為については、抑止されます。また、過去10年以内に公正取引委員会から排除措置命令を課されていた場合、違反期間の売上の1~2%に課徴金の納付が命ぜられ、予防効果は強くなります。

ところが、一口に「優越的地位の濫用」といっても、条文(独禁法2条9項5号)のアテハメ自体難しい作業です。同条によれば、「自己の取引上の地位が相手方に優越していること」、「を利用して」、「正常な商慣習に照らして不当に」、従業員を派遣するなどの行為をさせることを「優越的地位の濫用」としています。「他人の財物を窃取」(窃盗罪)、「暴行を加えた」(暴行罪)、「人殺した」(殺人罪)のような刑法の条文の規定なら視覚的であり、アテハメは容易です。しかし、例えば、「優越」の一言を取り上げても、中小企業と大企業とがどのような関係があったら「優越」にあたるのか、市場占拠率か、売上の相対関係か、取引の依存度か、依存度だとしてどれくらいの依存度が必要か、「正常な商慣習」と言っても、「正常な商慣習(法)」などという成文法はないし、地域、業種によってもしきたりはそれぞれである…。お客様は神様だから、仕事をもらた企業は謙虚に望むのが筋などと言われたら、もうなすすべはありません。中小企業から見て、こういうところが「優越的地位の濫用」だと声を大にして言い張ったとして、この条文にアテハマルかの判断は容易ではないのです。

確かに、公正取引員会は、一般指定、ガイドラインを告示したり、相談事例を公表しています。また、審決、裁判などの集積によっても、基準は明確化されてきています。しかし、そのアテハメが難しいことには変わりません。

また、問題の行為がアテハマッタとしても、その違反行為に広がりがないと、公正取引委員会も限られた人員で運営されていることもあり、排除措置命令を発動してくれません。

しかも、下請事業者が現実に被った損害の回復は射程に入っていません。

このような背景があるので、中小企業の方には、是非、下請法の活用をお勧めします。

下請法の内容のポイントは以下の通りです。

(1)いじめる企業といじめられる企業との相対関係が数値ではっきりしています。

下請法では、いじめる側を「親事業者」、いじめられる側を「下請事業者」と呼んでいます(いじめる主体なのに「親」とは命名がミスリーディングな気がします。)。小さい企業同士のいじめあいも成敗の対象にしています。

(2)規制の対象となる取引 もはっきりしています。

全ての限定は否定であるという名言にありますように、対象を明確化することの代償に、対象が限定されています。

物品の製造委託:例えば、家電メーカーの家庭電気製品の部品の下請事業者への委託

物品の修理委託:例えば、中古車販売業者の自動車の修理の下請事業者への委託

政令で定める情報成果物(プログラム)作成委託:例えば、システム開発業者のシステムプログラムの開発等の下請事業者への委託

政令で定める役務提供(運送、物品倉庫保管、情報処理)委託:例えば、貨物運送業者の貨物運送の下請事業者への委託

政令で定める情報成果物・役務提供委託を除く情報成果物作成・役務提供委託の場合は、親事業者と下請事業者の関係は以下のようになります。

(3)親事業者に禁止される行為もはっきりしています。

注文した物品等の受領拒否
下請代金を受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないこと
予め定めた下請代金を減額すること
受け取った物を返品すること
類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること
親事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること
下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会または中小企業庁に知らせたことを理由としてその下請事業者に対して、取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること)
有償で支給した原材料等の対価を、当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相殺したり支払わせたりすること
一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること
下請事業者から金銭、労務の提供等をさせること
不当な給付内容の変更及び不当なやり直しをさせること
 

(4)親事業者の違反行為予防のために、親会社に対しては、4つの義務が課されています。

発注の際、直ちに3条書面を交付すること。3条書面は、委託内容、代金、納期、代金支払時期等契約内容に係る基本的事項を明確化し、下請企業の権利を守ります。
下請代金の支払期日を給付の受領後60日以内に定めること。
下請取引の内容を記載した書類を作成し、2年間保存すること。
支払が遅延した場合は遅延利息を支払うこと(商事法定利率5%に対し、14.6パーセントと高額)。
 

(5)下請法は、親事業者の禁止行為を封じるため、3条書面交付義務等を規定し、さらに義務の履行を確保するため、義務違反者に対し、違反行為をした従業員だけでなく、その会社に対しても罰金刑(50万円)を課すことにしています。

また、公正取引員会には、違反行為の調査権限があり、違反行為が認められたとき、例えば、親事業者が期限が過ぎても請負代金支払わない場合に支払を勧告するなど、一定の禁止行為に当たる場合に適切な勧告を行うことできます。勧告という響きから、親事業者に対して強制力がないようにも見えます。しかし、現実には、下請事業者にとって、排除措置命令より、強い味方です。ほとんどの違反企業は、勧告に従い、例えば減額した請負代金を下請事業者に対して支払っています。勧告に従わなければ、排除措置命令が課すことができるようになっています。また、中小企業の保護という観点から、中小企業庁にも調査権限があり、公正取引委員会に適当な措置を採るよう求めることができます。

 

(6)もし、何らかの理由により請負代金が期限通り支払われない場合には、お近くの公正取引委員会地方事務所、経済産業局にご相談下さい。また、財団法人全国中小企業取引振興協会による「下請かけこみ寺」において、弁護士による無料相談も実施されております。

貴社が、親事業者の濫用的行為によって、利益を侵害されていると思われましたが、まずは上記各署にご相談されることをお勧めします。濫用的行為は繰り返され、慢性化するものです。気づいたら、速やかに、行動をとることで、手遅れになることなく、貴社の経営を守ることができるのです。

そして、日本の偉大な政治学者である丸山眞男先生は、戦前の日本が太平洋戦争へ引きずられていった社会の背景を分析し、「抑圧の委譲」といいました。親事業者にいじめられている企業が実は下に向かって同じことをしているということも多々あります。その点にも注意が必要です。

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